研究課題/領域番号 |
26460120
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
数馬 恒平 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 客員助教 (70552446)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ベニバナ色素 / 乱花 / べに餅 / LC-MS分析 / ケモメトリクス / 単離構造解析 |
研究実績の概要 |
多変量解析を行うためにコンピュータを導入し、統計解析ソフトウエアをインストールした。解析環境が整ったといえる。 前年度に確立した分析方法により各サンプル郡についてLC-MS測定を行い、解析用のLC-MSデータを取得した。主要な加工形態である乱花と紅餅については、その1%TFA含有MeOH抽出液LC-MSデータの二郡間比較解析を行った。SIEVE(Thermoscientific)では、PCA解析で乱花と紅餅サンプルが分離した。この差異を特徴づける成分として、P-valueの小さい成分を調べると、m/zや溶出時間から主にフラボノイド配糖体が関与していることが明らかになった。すなわち、乱花では配糖体類の量が多く、紅餅では少ない。また乱花ではプレカーサミンが多く、紅餅ではカーサミンが多い。このような傾向はXCMSによる二郡間比較においても同様に見られた。これまで、紅餅の成分については十分に調べられたことがなかった。紅餅は発酵花であり、発酵中に微生物により配糖体が分解され、フラボノイドアグリコンを多く含むものと推測される。加えて、この発酵過程は空気酸化により紅(カーサミン)の含有量を高めることと一般的に説明されてきたが、今回初めて科学的に裏づけされた。 染料を目的とした加工の最終産物である紅の性質を調べるために、伝統的製法により泥状紅を調製した。調製にあたっては、本科研費研究成果の一般市民への還元を目的に、2015年11月から2016年3月の週末に計6回行った。全体として泥状紅40g(乾燥紅としては4g)を得た。参加者がその場で口紅としたり、陶器に筆で塗って持ち帰ったりと大盛況であった。ここで調製した伝統紅の純度は約90%(HPLC)であった。伝統紅の生物活性について検討するために、リューシュマニア原虫に対する抗原虫活性を調べたところ、活性はなかった(徳島文理大学香川薬学部安元加奈未博士の協力による)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の予定は、多変量解析によるサンプル間差異の解析と、その差異に寄与する化合物の推定であった。 まず、多変量解析に用いるコンピューター(MacPro)、ソフトウエア(Parallels, R, Unsubscriber, proteowizard, Xcalibur, Sieve)が揃い、解析環境が整った。 次に、主要な加工品である、乱花(乾燥花)と紅餅(発酵乾燥花)について、二郡間比較解析により良好な分離が見られ、その差異に大きく寄与する成分がフラボノイド配糖体類であることを見出した。そのほか、ベニバナ黄色色素キノカルコン類にも大きく変動しているものを特定した。 一方で、新鮮花の品質とサンプリング法に問題があり、新鮮花との比較ができなかった。今年度は、再度山形へサンプリングに行く計画であったが、ベニバナの不作と、スケジュールが合わなかったことがあり実行できなかった。次年度に計画している。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画は進捗状況および方向性に関して、それほど大きな無理や変更の必要性がないという印象であり、次年度も計画通り進めていく。 今年度見出された、紅餅と乱花の差に関与するフラボノイド配糖体類とキノカルコン類の構造決定を中心に行う。加えて、伝統紅中に見出された不純物黄色色素の構造決定を進める。 新鮮花と加工花の比較を遂行するために、山形でサンプリングを行う。 今年度好評であった、伝統紅と紅染体験会を来年度も行う。本研究も含めたベニバナの情報発信をホームページで行えるよう慎重に準備している。
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次年度使用額が生じた理由 |
富山大学杉谷キャンパスの共通機器使用料金については、本科研費分と他の研究費分を分離することができず、その関係上若干の未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の共通機器使用料金などとして執行予定である。
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