研究課題/領域番号 |
26460134
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
井上 誠 愛知学院大学, 薬学部, 教授 (50191888)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | レチノイドX受容体 / 核内受容体 / 天然由来アゴニスト / 生活習慣病 / インスリン抵抗性 |
研究実績の概要 |
1)サンズコン由来RXRアゴニストSPF1とプロポリス由来RXRアゴニストDrupaninの生物学的特性の解析 <1> PPARγやLXRアゴニストが抗炎症作用を示すことより、当研究室で見出したRXRアゴニストであるSPF1について、LPS刺激RAW264.7細胞に対する抗炎症活性を検討した。その結果、SPF1はRXR依存的にIL-6、COX-2、iNOS mRNAの産生を抑制する一方、RXR非依存的にIL-1β及びTNF-α mRNAの産生を抑制することを見出した。また、SPF1はLXRアゴニストが示す抗炎症作用を増強することが明らかになった。 <2>SPF1と合成RXRアゴニストであるベキサロテンの遺伝子発現能の相違をRAW264.7細胞を用いてマイクロアレイ法で解析した。その結果、SPF1が特異的に2倍以上mRNA発現量を増加させた遺伝子は192種類、ベキサロテンが特異的に2倍以上mRNA発現量を増加させた遺伝子は138種類あった。SPF1が正常群、ベキサロテン群に比べて、GDF15やABCA1などの遺伝子mRNAの発現量を増加させた。また、SPF1とベキサロテンは同様に、メタロチオネインmRNAの発現量を大きく増加させることを見出した。この遺伝子発現パターンは、マウス腹腔マクロファージでも観察された。 <3>ドルパニンの核内受容体選択性を調べたところ、ドルパニンはRXRのサブタイプα、β、γにほぼ同様に活性化すること、また、ドルパニンはPPARγにも弱い結合活性を示しRXRとPPARγに対するデュアルアゴニストであることがわかった。ドッキングスタディーより、ドルパニンは9-cis-レチノイン酸のRXR結合サイトに結合することが明らかになった。また、PPARγのフルアゴニストであるロシグリタゾンよりは弱いものの、3T3-L1前駆脂肪細胞の分化誘導能を示した。そこで、db/db肥満糖尿病モデルマウスを用いて、インスリン抵抗性の改善作用を検討したが、ドルパニンを2週間の腹腔内投与した後の空腹時血糖、グルコース糖負荷試験において有意な効果は観察されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一つ目の研究目的である「副作用のため使用が制限されている唯一のRXRアゴニストであるベキサロテンと異なった特性をもった天然由来RXRアゴニストを探索する」ことに関しては、SPF1がベキサロテンと同様にRXRアゴニストとして各種RXRヘテロダイマーを活性化する一方、ベキサロテンとは異なる遺伝子発現パターンを示すことを明らかにしたことより、成果があったと考えられる。2つ目の目的である「RXRアゴニストの生活習慣病や慢性炎症性疾患に対する有効性を調べる」ことに関しては、研究は部分的に進行しているが、対照薬物でもよい結果が得られておらずモデルの検討が必要である。さらに、3つ目の目的である「RXRアゴニストの有効な使用指針を確立するために、RXRアゴニストの物理、生物、薬理学的特性に基づく幅広い構造活性相関データーベースの作製」に関しては、現時点では天然由来アゴニストが数多く得られていないので十分な成果が得られていない。しかし、新規RXRアゴニストのスクリーニングはミャンマー産あるいはトルコ産植物を利用して今後も精力的に進める予定であり、本年に新たな進展が期待される。このように、初年度の研究計画のうち7~8割で何らかの結果が得られている。また、いくつかの新知見が得られたことにより新たな研究の展開考えられ、1年目の実績としては評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
1)RXRアゴニストが抗炎症作用を示す報告は少なく、SPF1が抗炎症作用を示すこと、その作用はRXR/LXRヘテロダイマーを介する可能性が示唆されたことより、これまでに報告のない機序によりRXRアゴニストが抗炎症作用を示していることが考えられた。さらに、SPF1が抗炎症活性を示すGDF15とメタロチオネインのmRNAをRAW264.7細胞、腹腔マクロファージで誘導することを見出したことより、SPF1 に特徴的な抗炎症作用とベキサロテンなどのRXRアゴニストに共通の抗炎症作用を示すことが示唆された。そこで今年度は、SPF1の抗炎症作用にRXR/LXRヘテロダイマーが関与する可能性と、GDF15やメタロチオネインが関与する可能性を詳細に検討する。さらにRXRアゴニストの有効性を証明するために、炎症性疾患としてDSS誘導潰瘍性大腸炎モデルマウス及び皮膚炎モデルマウスに対する効果を検討する。また、新たな疾患モデルとしてアルツハイマー病モデルAPPマウスに対する効果の検討を開始する。 2)ドルパニンのRXRとPPARγデュアルアゴニストとして有効性をdb/db肥満糖尿病マウス、皮膚炎モデルマウス、アルツハイマー病モデルマウスを用いて検討する。 3)天然由来RXRアゴニストの特性を多面的に解析しデーターベース化する目的のために、新規RXRアゴニストのスクリーニングを継続する。資源としては高知県牧野記念財団より供与していただくミャンマー産植物のエキス(約1500種類)と今年度より5年間国際交流協定を締結したトルコハジェテペ大学より供与していただくトルコ産薬用植物を用いる。 4)当初の計画に従い、RXRアゴニストがRXRに結合することによりリクルートされるコアクティベーターや未知のタンパク質を解析するために、GST-RXR融合タンパク質を作製し、pull-downアッセイ法により解析を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度に謝金の使用がなく、その他の項目の使用も少なかったので、66343円を次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
66343円は次年度に物品費として使用する予定である。
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