本研究は天然由来レチノイドX受容体(retinoid X receptor : RXR)アゴニストの生理活性を明らかにし、疾患の予防・治療への応用を目指した基礎研究である。当研究室で単離同定したRXRに対する天然アゴニストとして山頭根由来フェニルプラバノンSPF1とSPF2、プロポリス由来ドルパニン、厚朴由来ホーノキオール誘導体について検討を行った。その結果、SPFsはマクロファージ系細胞に対して、炎症性サイトカインの産生を抑制することを見出し、さらにその作用はLXR(liver X receptor)アゴニストの共存下で増強されることを明らかにした。最終年度の研究においては、アルツハイマー病発症の原因の一つと考えられているアミロイドβ(Aβ)が誘導する神経細胞のアポトーシスに及ぼすSPFsの効果を検討したところ、SPFsはAβにより惹起されるアポトーシスを抑制し、その作用はアポトーシス誘導シグナルである活性酸素を消去することによる可能性を示した。そして本作用もLXRアゴニストの共存下で増強されることを明らかにした。さらに、SPFsは重金属の解毒、抗酸化、抗炎症活性を示すメタロチオネイン(特にII)を誘導することを見出し、この作用は亜鉛の存在下で著しく増強されることを見出し、活性酸素種が原因となっている炎症性疾患への応用が期待された。また、最終年度の研究において、ドルパニンはマウス初代培養アストロサイトのAβによる細胞死の誘導を、用量依存的あるいはRXR依存的に抑制することを見出した。これらの研究を通して、SPFsやドルパニンがRXR/ LXRヘテロダイマーを介して抗炎症作用やコレステロール代謝活性化作用を示すことが明らかになり、新しい作用機序を有する抗炎症剤として、動脈硬化症にとどまらず、アルツハイマー病や脳血管性認知症等の炎症性疾患の予防・治療への応用が期待された。
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