研究課題/領域番号 |
26460137
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
棚橋 孝雄 神戸薬科大学, 薬学部, 教授 (20171811)
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研究分担者 |
水品 善之 信州大学, 農学部, 教授 (20307705) [辞退]
濱田 信夫 大阪市立自然史博物館, その他部局等, その他 (40270764)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 地衣菌培養 / エピジェネティック制御 / 二次代謝の誘導 / 生物活性天然有機化合物 / DNAポリメラーゼ阻害 / がん細胞増殖抑制 |
研究実績の概要 |
地衣類は、子嚢菌や担子菌類などの地衣菌が藻類と共生した複合生物体であり、古くから染料、香料、生薬として利用されている。地衣類は、地衣成分とよばれる植物成分とも菌代謝物とも異なる特徴的な二次代謝産物を生産することで知られ、最近、これら地衣成分の生物活性についても関心が持たれている。共生状態の地衣体から地衣菌と共生藻を単離し、人工的な条件下でそれぞれを培養すると、培養地衣菌単独で地衣成分を生産することから、地衣成分の生合成の主体は地衣菌であり、生合成に関与する遺伝子はすべて地衣菌が備えていると考えられている。しかし、地衣菌を種々の条件で人工培養すると、本来の地衣成分とは骨格的に全く異なる異常な代謝物の生産がしばしば認められる。このことから、地衣菌には地衣成分の生合成に関与する遺伝子の他に、種々の二次代謝関連遺伝子が内在していることが示唆される。そこで、種々の条件下で単離地衣菌を培養し、エピジェネティックな手法を用いて、自然界の共生状態では抑制されているこれら休眠遺伝子を発現させることができれば、有用な生物活性を持つ新規代謝物の生産が可能と期待し、本研究に着手した。今年度は、ベトナムで採集した地衣類、Diorygma sp.および Pseudopyrenula subnudataより胞子由来の地衣菌を単離し、高濃度のグルコースを含む寒天培地上、高浸透圧ストレス下で培養することにより、前者より4種の新規セスキテルペン類を、また後者より6種の新規ポリケタイド類を単離・構造決定した。また後者に関しては、投与実験を行うことにより、生合成経路における酢酸の取り込み様式についても検討した。これら代謝物は、従来の地衣類の成分とは骨格の全く異なるもので、菌類の代謝物との類似性が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ベトナムで採集した固着地衣類の子器から、胞子を放出させて純化培養する方法で培養地衣菌を得て、単離培養を行い、期待した結果が順調に得られつつある。これまでに、1.Pyrenula sp.より新規ポリケタイド類を単離・構造決定し、それらのDNAポリメラーゼ阻害活性およびガン細胞増殖阻害活性を評価した。またDNA解析により、菌類との遺伝的な関係性について若干の知見を得た。2. 同地衣菌の物質生産に及ぼす種々の培養条件を検討し、安息香酸添加の際に新規代謝物が生産されることを明らかにし、その構造を決定した。3. Diorygma sp.の地衣菌を単離し、高濃度のグルコースを含む寒天培地上、高浸透圧ストレス下で培養し、angular triquinane型の新規セスキテルペン類を単離・構造決定した。4. Pseudopyrenula subnudata之培養地衣菌より新規ポリケタイド類を単離・構造決定し、生合成実験を行った。これら実験により、単離培養地衣菌を種々の培養条件で培養することにより、休眠遺伝子を発現させて、新たな代謝物の生産に繋げることが可能であることを示した。現在培養中の地衣菌培養についても培養条件と代謝物の生産性について今後検索を行う予定であり、新たな知見が得られる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定に従って、単離培養地衣菌による新規有用物質の探索を継続するとともに、最終年度であるため、これまでの成果の取り纏めを行う。 ベトナム産地衣類より単離し、高濃度の糖を含む培地上で培養を行っている多くの地衣菌株のうち、代謝物の検索を未だ行っていないものに関して、TLCによる成分のスクリーニングにより物質生産株を選抜、大量培養をおこなって、二次代謝物の単離・構造決定を行う。また単離した二次代謝物についてDNAトポイソメラーゼ阻害活性などの生物活性を評価するとともに、投与実験により生合成経路について検討を加える。また物質非生産株については、培地中の糖質の種類の変更や、培地へHDAC阻害剤などを添加などのエピジェネティックな制御により新たに二次代謝が誘導されるかを検討する。 一方、新規の二次代謝物を生産する地衣菌株についてDNA解析を行うことにより、構造決定と生合成実験の結果と合わせて、地衣菌と菌類との遺伝的な関係性について検討を加える予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26,27年度は既に培養を開始していた地衣菌株の代謝物の構造決定に重点があったため、物品費の支出は少なかったが、平成28年度は、新しく培養を開始して成分の未検索のものについて、TLCで成分をスクリーニングし、物質生産株については大量に培養し、代謝物の単離・構造決定を行う。また非生産株については種々の糖質の添加や、エピジェネティック制御による物質生産への影響を検討する予定であるので、大量培養に必要な器具や試薬購入の物品費が見込まれる。 また代謝物を生産する地衣菌株についてDNA解析を外部委託するために謝金が見込まれる。
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次年度使用額の使用計画 |
培養を開始している多数の地衣菌株のうち、物質生産株を大量培養し、代謝物の単離・構造決定、生合成実験、生物活性試験を行う。また非生産株については種々の糖質、nicotinamideなどヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤や抗酸化剤の添加などエピジェネティック制御による物質生産への影響を検討する予定であるので、培養に必要なガラス器具や試薬類などの物品費を見込んでいる。また地衣菌株のDNAのITS領域の解析を外部委託し、地衣菌と菌類との遺伝的な関係性について解明する予定である。 さらに、これまでの成果を論文にまとめて投稿する予定である。
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