研究実績の概要 |
地衣類は、地衣菌が藻類と共生した複合生物体で、地衣類の生産する地衣成分は、植物成分とも菌代謝物とも異なる特徴的な化合物群である。地衣菌は地衣体から単離培養が可能であり、藻類が存在しなくても地衣成分を生産することから、地衣成分の生合成に関与する遺伝子はすべて地衣菌が備えていると考えられている。一方、地衣菌の単離培養により、地衣成分とは構造的に異なる、異常な新規二次代謝物生産がしばしば認められる。このことから、地衣菌には、地衣成分の生合成遺伝子のほかにも多くの二次代謝関連の休眠遺伝子が内在しており、自然界の共生状態ではこれらの発現は抑制されていると予想される。そこで、地衣類より地衣菌を単離培養し、エピジェネティックな手法により休眠遺伝子を発現させることにより、有用な生物活性をもつ新規二次代謝物の生産が期待される。最終年度は、1) ベトナム産未同定の地衣菌株8種を高濃度の糖を含む寒天培地上培養し、代謝物の検索を行なった。V414, V413, V403, V405, V407からは類似した代謝物が得られ、butyrolactone IIなどの既知化合物とともに3種の新規phenguignardic acid誘導体を単離、構造決定した。V415からは既知セスキテルペンMBJ-0012, MBJ-0013を単離同定した。V402からはマクロラクトンcurvularinとともに2種の新規フェノール性化合物を、V507からは2種の新規ナフトキノン誘導体を単離、構造決定した。2)地衣菌の種は未同定であったので、DNAシーケンス解析を行なった。3) 代謝物非生産菌株にsuberoyl bis-hydroxamic acid, nicotinamideまたはferulic acidを 添加することにより,エピジェネティックな物質生産の可能性を検討したが顕著な変化は見られなかった。
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