本研究は、低分子阻害剤に代表される既存のタンパク質機能制御法が抱える問題点を克服するため、新しいタンパク質機能制御法として、細胞内触媒的化学修飾(アシル化)による標的タンパク質の細胞内局在制御とそれによる機能制御を実現することを目的とする。前年度までに、ジヒドロ葉酸還元酵素をモデルタンパク質として用い、タンパク質選択的アシル化触媒の開発、それによるタンパク質の脂肪酸化、そして脂肪酸化されたタンパク質が膜成分に集積すること、さらに生細胞内で選択的なアシル化修飾が可能であることを明らかにしていた。 平成29年度は、生細胞内での脂肪酸化修飾と修飾タンパク質の細胞膜局在を目標として検討を開始した。しかし、脂肪酸ドナー分子の細胞毒性が非常に高く、生細胞内での脂肪酸化は困難であると判断した。そこで、細胞膜局在から核局在へと局在目標を変え、触媒反応によって標的タンパク質にDNA結合化合物を共役させることを目指した。その結果、in vitroの反応において目的の化学修飾が可能であることを確認できた。現在は、この核局在型触媒反応を生細胞内で実現することを目指して検討を行なっている。 また合わせて、病態関連タンパク質への本触媒系の適用も進めている。具体的には、多くのがんで変異が見られることからがん遺伝子の代表であるにも関わらず、30年以上創薬に至っていないタンパク質であるK-Ras(G12C)を標的として検討を行った。現在までにK-Ras(G12C)を触媒依存的にアシル化することに成功しており、今後は生細胞内での反応の実現に向けて検討して行く予定である。
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