研究課題
本研究課題において我々が克服すべき課題は、β-hexosaminidase Aの活性中心近傍の環境を理解し、酵素の安定性を高める実用的なシャペロン化合物を見いだすことである。そこでまず母核構造の異なる種々のイミノ糖化合物について系統的な親和性の評価を行うことにした。プロリンアミド型のイミノ糖であるN-methyl 5-(hydroxymethyl)- 3,4-dihydroxyproline amideの異性体・全16種についてβ-hexosaminidase Aに対する構造活性相関を検討した。その結果、測定した16種のうち8種の化合物にβ-hexosaminidase Aに対する高い親和性が認められ、特にD-manno型のイミノ糖ではIC50値が0.033 μMと極めて強力な阻害活性が認められた。阻害効果を示した8種のプロリンアミド型のイミノ糖は、いずれもC3(R)-コンフィグレーションを取っていたことから、C3(R)-コンフィグレーションを取ることが活性発現に極めて重要であることが明らかになった。更に強力な阻害活性を示したD-manno型プロリンアミドを中心に置換基の配位を変えたところC2位のCONHMe基の配位を反転させると活性が明らかに低下した。このことからプロリンアミド型のイミノ糖においては(2S, 3R) -コンフィグレーションを取ることがβ-hexosaminidase Aに対する強い認識に必須であることが明らかになった。次に基質構造との類似性がβ-hexosaminidase Aとの親和性に与える影響を調べる目的でN-アセチルグルコサミンとの相同性が高いβ-homo-2-acetamido-1,2-dideoxynojirimycin (β-HNJNA)と α-homo-2-acetamido-1,2-dideoxy-mannojirimycin (α-HMJNAc)を新たに合成し、β-hexosaminidase Aに対する阻害効果を検討した。その結果、human placenta由来β-hexosaminidaseに対してIC50値がそれぞれ72および303 μMとその阻害活性と、これまで報告されているDNJNAcあるいはDGJNAcと比較しても明らかに弱かった。
2: おおむね順調に進展している
本年度の成果により、目標であった母核構造の異なる種々のイミノ糖化合物についてβ-hexosaminidase Aに対する親和性の評価を行うことができた。特にピロリジン型イミノ糖を中心とした複数の化合物に既存の阻害剤であるDNJNAcを上まわる阻害効果が認められるなど、活性面での進展があった。また、基質との類似性に関してもDNJNAcを基本とした派生化合物としてβ-homo-2-acetamido-1,2-dideoxynojirimycin (β-HNJNA)と α-homo-2-acetamido-1,2-dideoxy-mannojirimycin (α-HMJNAc)を新たに合成し、β-hexosaminidase Aに対する阻害効果を検討したが、これらの化合物も我々が新たにデザインを進めているピロリジン型イミノ糖と比べ活性ははるかに低く、デザインの方向性としてはDNJNAcではなくLABNAcや(2S, 3R) -コンフィグレーションを取るプロリンアミド型イミノ糖をベースに考えるべきだという結論に至った。
β-hexosaminidase Aの活性中心近傍の環境を理解し、酵素の安定性を高める実用的なシャペロン化合物を見いだす事を目的とし、プロリンアミド型のイミノ糖であるN-methyl 5-(hydroxymethyl)- 3,4-dihydroxyproline amideの異性体・全16種およびN-アセチルグルコサミンとの相同性が高いβ-homo-2-acetamido-1,2-dideoxynojirimycin (β-HNJNA)と α-homo-2-acetamido-1,2-dideoxy-mannojirimycin (α-HMJNAc)を新たに合成した結果、基質との類似性が一見ないように思われるプロリンアミド型のイミノ糖に強力な親和性が認められた。これまでプロリンアミド型イミノ糖と同様のピロリジンを母核とするイミノ糖としてはL-arabinose型のC2位にNHAc基を有するLABNAcがIC50 6.7 μMを示すことが報告されている。更に我々はLABNAcの構造異性体であるXYLNAcをglucuronolactoneから合成するとともにLYXNAcのエナンチオマーをL-arabino-δ-lactoneとD-ribino-δ-lactoneからそれぞれ合成し、β-hexosaminidase Aに対する親和性を比較したところD-xylo型のXYLNAcにIC50 4.9 μMを示すことを明らかにしている。LABNAcに対してD-XYLNAcはC4エピマーの関係にあり、これは今回得られたプロリンアミド型イミノ糖の活性発現条件とも異なる。これらの結果は、β-hexosaminidase A との親和性においてNHAc基の位置がイミノ糖の配向に大きな影響を与えているためと考えられる。今後、活性中心における化合物の結合状況の解析を行いつつ更なる化合物デザインを進める予定である。
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