研究課題
本研究において克服すべき課題は、β-hexosaminidase Aの活性中心近傍の環境を理解し、酵素の安定性を高める実用的なシャペロン化合物を見いだすことである。昨年度に引き続き、母核構造の異なる種々のイミノ糖化合物について系統的な親和性の評価を行った。これまでDNJNAcに代表されるピペリジンイミノ糖およびプロリンアミド型のイミノ糖であるN-methyl 5-(hydroxymethyl)- 3,4-dihydroxyproline amideを中心にβ-hexosaminidase Aに対する親和性及び結合に関与するアミノ酸について解析を行ってきたが、今年度は、より環サイズがより小さいアゼチジン型イミノ糖に着目し、柔軟かつ簡便な合成法の確立を目指した。現在、異性体および関連化合物17種類の合成が完了しており、これらを用いてβ-hexosaminidase Aに対する結合能の評価を行っている。これまでにL-ribono-azetidine amideがβ-hexosaminidase Aに対しKi値0.9 μMとDNJNAcとほぼ同程度の強力な親和性を持つことを見いだしている。更にβ-hexosaminidase Aが、母核構造の異なる様々なイミノ糖に対して親和性を持つ事が次第に明らかになってきた。これらの結果は、β-hexosaminidase Aの基質認識性がβ-glucocerebrosidaseを始めとする他のリソソーム酵素と比べかなり柔軟であることを示唆しており、今後、単環性イミノ糖に加えて二環性イミノ糖についても更に研究を進めることにした。現在、ピロリチジン型イミノ糖としてaustraline、ノルトロパン型イミノ糖としてcalystegineおよびlabystegineを選択し、一連の化合物の合成および親和性の測定を行っている。
2: おおむね順調に進展している
従来までのイミノ糖を基盤としたクリコシダーゼ阻害剤のデザイン研究では、基質との構造類似性に主眼を置いた研究が行われてきた。一方、本テーマで扱っているβ-hexosaminidase Aに関してはN-アセチルグルコサミンが持つピラノース構造を模したピペリジン型イミノ糖(六員環)だけでなく、アゼチジン型(四員環)からアゼパン型イミノ糖(七員環)まで環サイズを徐々に変化させた場合でも親和性が認められる。これらの結果はβ-hexosaminidase Aが、β-glucocerebrosidaseを始めとする他のリソソーム酵素と比べかなり柔軟かつ許容性が高い酵素であることを示している。従って、酵素の安定性を高める実用的なシャペロン化合物をデザインする際には、必ずしも基質類似性にこだわる必要がなく認識あるいは触媒に関与するアミノ酸残基の同定を行い最適な母核構造のもと、OH基を最適な位置に配位させることが重要である。これら得られた解析結果を基に最適なシャペロン化合物のデザイン合成を進めていく予定である。
上記の通り、β-hexosaminidase Aの基質認識に対する柔軟性(許容性)が高いことが明らかになった。従って、今後はこれまで単環性化合物を中心に解析およびデザインを行ってきた結果を発展させ、ピロリチジン型、インドリチジン型あるいはノルトロパン型など二環性イミノ糖についても更に検討していく予定である。これまでの研究結果からピロリジン型イミノ糖であるN-methyl 5-(hydroxymethyl)- 3,4-dihydroxyproline amideが強力なシャペロン効果を示しており、更に異性体全16種を用いた比較検討からC3(R)-コンフィグレーションを取ることがシャペロン活性発現に極めて重要であることも明らかにしている。今後、これらの知見を基に特にピロリジン型イミノ糖2分子が結合したピロリチジン型イミノ糖を中心にシャペロン効果を検討していく予定である。
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