研究課題/領域番号 |
26460144
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
兒玉 哲也 名古屋大学, 創薬科学研究科, 准教授 (00432443)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 人工核酸 / 構造制御 / 核酸化学 / 有機合成化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、核酸糖部の立体配座と塩基の回転角を精密に制限した人工ヌクレオシドの合成とそのオリゴ核酸中での性質を評価することにより、アンチジーン法をはじめとした新たな核酸創薬の基盤構築を目指す。 本年度は、O4'エンド構造とC3'エンド構造に糖部を固定した新しい二種類の人工ヌクレオシドを合成した。O4'エンド構造をもつヌクレオシドは、5-メチルウリジン出発原料とし、糖部2'位と塩基部6位との間をラジカル反応によって架橋する事で合成した。一方、C3'エンド構造をもつヌクレオシドは、ジアセトングルコースを出発原料とし、トランス縮環したテトラヒドロフラン構造の構築を鍵として合成し、その構造の揺らぎを強固に抑制した。それぞれ200ミリグラムまたは10ミリグラム程度合成する事に成功した。 さらに、O4'エンド構造をもつヌクレオシドはオリゴDNA中に導入し、その基本的性質を評価した。まず、15塩基長のピリミジンDNA中を、1ヶ所、2ヶ所、3ヶ所または11ヶ所の人工ヌクレオシドで修飾したオリゴ核酸の三重鎖形成能を三重鎖核酸の50%融解温度で評価した結果、一修飾あたり9度程度の融解温度の低下が観察され、この糖部構造をもつ人工核酸は三重鎖形成核酸としては不向きである事が分かった。一方で、3'-5'エキソヌクレアーゼによるオリゴDNAからの切り出しに対して強い耐性を有している事を明らかにした。これは3'エンド構造に固定した核酸類とは異なる耐性様式であり興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
構造制御したヌクレオシドの合成経路は煩雑になる事が多いことから、昨年度の当初計画では、一種類の人工ヌクレオシド、1'エキソ型ヌクレオシドの合成とその構造特性を精査することを計画していた。残念ながら1'エキソ型ヌクレオシドの合成は未達成ではあるものの、その研究過程で見いだした結果の一部からO4'エンド構造をもつヌクレオシドの合成を達成できる事を明らかにした。また、その合成が比較的短経路となった事からヌクレオシドの合成と構造特性評価にくわえ、当初は次年度に計画していたオリゴDNAへの導入を達成した。 さらに、当初の計画では想定していなかったが、量子化学計算等による分子モデリングの結果、新しく設計したC3'エンド構造をもつヌクレオシドの合成を達成できれば、これまでに達成されていないカタチへの核酸糖部構造固定を実施できる可能性が明らかとなったことから、その合成に着手した。このヌクレオシドは安価なグルコースから比較的単工程で合成でき、10ミリグラム程度ではあるもののその合成をすでに達成した。 このように、当初予定していた1'エキソ型ヌクレオシドの合成研究を進める過程で見いだした知見を基に、二年目以降の計画の一部をすでに進める事に成功した他、当初計画していなかった分子の設計と合成にも成功しており、当初の計画以上に進展していると考えている。 一方で、安定であると推定される芳香族化合物への異性化(芳香族化)が進行しないなどの予想外の物性から、1'エキソ型ヌクレオシドの合成は達成で来ていないため、合成経路の見直しが必要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度は昨年度に引き続き、まず1'エキソ型ヌクレオシドの合成を実施する。昨年度の結果から、ラジカル環化反応による架橋形成経路では、架橋形成時に脱芳香族化する核酸塩基部の再芳香族化が困難である事が予想されるため、脱芳香族化を伴わない金属触媒を用いる経路を検討する。 ピラノシド核酸を基盤としたうえで、その糖部構造および核酸塩基の回転を制御した人工ヌクレオシドの合成に着手する。ピラノシド核酸は、RNAなどのフラノシド核酸と同じ核酸塩基の回転角χを有するが、天然の3'-5'リン酸ジエステル結合ではなく4'-6'結合を介して連なるため、二重鎖核酸中での相対的な塩基の配向が異なる。そこで、糖部5'位と塩基部との間に共有結合を介する事で核酸塩基の回転角を制御し、かつ3'-5'リン酸ジエステル結合をもつ人工核酸を合成する。安価なグルコースを出発原料とし、他のヌクレオシドとの共通中間体を用いる事で合成の効率を上げる。 予定を繰り上げて研究を進めたことで今後行う予定としていた項目の一部をすでに実施したため、その繰り上げた時間をつかって当初計画していなかったが本年度急遽実施した3'エンド型人工ヌクレオシドのオリゴ核酸中での性質を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実績の項目に記載したように、本年度は当初予定していた研究の結果を基にすることで付随した研究計画が予定以上に進んだ。当初計画そのものは達成しなかったものの、その結果が類縁化合物の合成を極めて順調に進める事に寄与したため、実験の条件検討などで必要になる試薬類の購入などが少なく済んだ。一方で、まだ合成を達成していないヌクレオシドの合成検討は次年度実施する必要があるため、本来は今年年度使用予定として申請した費用の一部を次年度使用する事にした。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度実施予定であった分は、実績報告書の今後の方針で記載したように次年度実施する予定であるため、特段の計画に変更はなく、主に物品費として使用する。内訳としても大きな変更はなく、試薬類の購入に充てる。ただし、研究の効率を上げるため、その一部を利用してガス供給システムを購入することを計画しているが、研究の進展によって費用を捻出できないことが明らかになれば、研究の効率化は諦める。 当初から次年度実施すると計画していた分の費用は、当初予定通り使用する予定である。 以上のように、次年度使用額として使用する分は主に今年度から研究を進めている項目の継続分として使用し、当初から次年度使用するとしていた分は予定通りの項目に使用する他、実績報告書に記載したように新たに合成を開始した化合物の物性評価のために使用する予定である。
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