核酸糖部の立体配座と核酸塩基の回転角を精密に制御した人工ヌクレオシドの合成とそのオリゴ核酸中での性質を評価することにより、アンチジーン法をはじめとした新たな核酸創薬の基盤構築を目指した。本研究では、DNA中で広く見られる立体配座であるO4’エンド構造またはC3’エンド構造の糖部立体配座をもつ新しいヌクレオシド(Ns)を合成し、その基本的な化学安定性を精査するとともに、LNA類との比較を通じてそのアンチジーン法に繋がる基本的性質を評価した。 O4’エンド型Nsは、5メチルウリジンを出発原料とし、糖部2’位と塩基部6位との間をラジカル反応によって架橋することで合成した。C3’エンド型Nsは、グルコース誘導体を出発原料とし、5メチルウリジン類縁体とアデノシン類縁体とをそれぞれ100~10ミリグラムスケールでの合成に成功した。また、C3’エンド型Nsは、これまで報告のない独特なトランス縮環構造により極めて強固に立体配座が固定されていることが、NMRやX線結晶造を解析することで明らかとなった。さらに、トランス縮環テトラヒドロフラン構造が酸性下で分解することを示した。 興味深い事にNsレベルでは酸性条件下で分解性を示した人工Ns骨格がオリゴ核酸中では安定であり、酸性水溶液(pH 4)中で少なくとも1時間は分解が認められなかった。人工Ns導入したオリゴDNAが形成する三重鎖の熱的安定性は、O4’エンド型Nsをもつオリゴ核酸が大きくその高次構造を不安定化する一方で、C3’エンド型Nsをもつオリゴ核酸は天然DNAの三重鎖と全く同じ安定性を示した。これら人工核酸が天然DNAとは異なる分解酵素耐性を示すことも明らかとした。 本研究で合成したC3’エンド構造をもつオリゴ核酸の性質はアンチジーン法への適用に期待でき、引き続きこの類縁化合物の開発がこの研究領域の理解に役立つことを示すことができた。
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