研究課題/領域番号 |
26460145
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
青木 俊介 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (30392426)
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研究分担者 |
北村 充 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (10313199)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機合成 / 感染症 / 抗菌薬 / 結核 / シミュレーション / ドッキング / 化合物ライブラリ |
研究実績の概要 |
研究代表者らはInhAを標的としたin silicoスクリーニングから薬剤耐性を回避可能な新規抗結核菌化合物KES4の同定に成功した。本研究ではKES4の合成展開に特化したテーラーメード化合物構造ライブラリを構築し、結合シミュレーション手法により高選択性・低毒性のKES4類縁化合物を創出する事を目指して研究を進めている。本年度は,主に以下の3項目に関して研究を展開した。1) KES4に特化したテーラーメード化合物構造ライブラリの構築と化合物スクリーニング。2) KES4ならびに類縁体の有機合成経路の確立と合成。 2) KES4ならびにその類縁体の生理活性検証。 研究項目1)に関して,市販化合物原料から有機合成可能なKES4類縁体に特化した構造ライブラリを構築し標的タンパク質InhAに対して遺伝的アルゴリズムを用いたドッキングシミュレーションやInhAと化合物の相互作用を予測することで候補化合物を選定した。研究項目2)に関して, 実際にこれら化合物を有機合成し、H-NMR、C-NMR、質量分析、IRを用いて構造の決定を行った。研究項目3)に関して,合成に成功した化合物は、結核モデル細菌(M. smegmatis)を用いて増殖阻害効果や濃度依存性の検証のために50 %阻害濃度(IC50)の検証を行った。その結果、2種類の化合物においてリード化合物であるKES4よりも高い増殖阻害効果を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は4環構造(A-Dリング)からなるKES4に特化した,類縁化合物群から構成され,かつ市販合成原料から構築可能なテーラーメード化合構造ライブラリを完成させた。さらに標的タンパク質との結合シミュレーションにより候補化合物を絞り込むことができた。一方で、AリングからDリングまでを順次連結させる有機合成経路を完成させることに成功し、実際にこれら化合物を有機合成できた。さらに、抗菌効果に関しても合成化合物の既存化合物に対する優位性が確認され当初の計画どおり研究は達成されていると考えられる。今回作成したテーラーメード化合構造ライブラリは末端の環構造であるAリングに特に多様性を有しているが,一方でKES4のCリング,DリングはInhAのLeu218, Tyr158, Met199, Phe149と相互作用していることから,CならびにDリングの改変は新たなInhAへの結合サイトの探索や活性上昇を目指す上で有効であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究から種々のKES4類縁体を有機合成することでmg単位で比較的安価に入手することが可能となった。目的の化合物は多段階の反応で合成したが二段階目のphenolのプロトンを引き抜くための塩基性試薬や4段階目のBoc化反応に関して検討する事でより収率を上昇できると考えている。シミュレーションで効果が期待された化合物の一部に抗菌効果を示さないものがあり、細胞膜透過に関係する分子表面極性(tPSA)等も今後は考慮したい。抗菌効果が見出された化合物は今後、毒性評価を行っていく必要があると考える。また、化合物がInhAに対して直接作用するかを確かめるために酵素アッセイを行う必要がある。IC50値の低下が見られる化合物に関しては各種細菌に対する抗菌効果ならびに抗菌スペクトルの検証も必要である。結核菌、耐性結核菌、マイコバクテリア属細菌 (InhAとの相同性95~87%)、ロドコッカス属細菌(65%)、スタフィロコッカス族細菌(35%)ならびに大腸菌(33%)等に対する抗菌効果を検証する。最終的には結核菌に特異的な抗菌効果を有し毒性を有さない化合物を合成する。In silicoと有機合成を組み合わせた手法は、今後、自由な化合物の設計、探索を可能にすると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
円相場等に影響される有機合成原料化合物の価格変動で55901円残高が出た。来年度に計画される有機合成実験で吸収される。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度における有機合成実験で原料化合物として計上される。また、一部は生物学的実験の消耗品として支出する。
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