研究課題/領域番号 |
26460147
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
黒崎 博雅 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 准教授 (70234599)
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研究分担者 |
藤田 美歌子 熊本大学, 薬学部, 准教授 (00322256)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 感染症 / ラクタマーゼ / 抗生物質 / X線結晶構造解析 / 阻害剤 / ラクタム剤 |
研究実績の概要 |
近年、NDM-1(New Delhi Metallo-β-lactamase)と呼ばれる新型のメタロ‐β‐ラクタマーゼが出現し、世界各国の医療機関で問題になりつつある。これまでのメタロ-β-ラクタマーゼは、緑膿菌など日和見細菌から殆ど産生されていたのに対して、NDM-1は大腸菌や肺炎桿菌から分離され、市中感染して世界的に蔓延することが危惧されている。メタロ‐β‐ラクタマーゼは、ほぼ全てのβ-ラクタム剤を分解する。現在臨床使用されているクラブラン酸などのセリン-β-ラクタマーゼ阻害剤に対して全く感受性を示さず、臨床効果的な阻害剤がない。さらにNDM-1の出現もあり、薬剤耐性の化学反応機構の詳細や阻害剤開発が緊急の課題となっている。本研究では、クラスBに分類される種々のメタロ‐β‐ラクタマーゼの分子構造をX線結晶構造解析により決定し、そららの分子構造に立脚した全てのメタロ‐β‐ラクタマーゼを阻害する臨床的に有用なリード化合物を探索することが目的である。平成26年度では、Acinetobacter spp.由来のIMP-2メタロ‐β‐ラクタマーゼの分子構造を2.3Åの分解能で決定した。IMP-2の分子構造とMP-1メタロ-β-ラクタマーゼ(アミノ酸配列相同性85%)のそれと比較した。68位のアミノ酸残基は基質認識に重要と考えられている可動性のループの根元に位置し、IMP-2ではセリン、一方、IMP-1ではプロリン残基となっている。両者の構造比較から、68位のアミノ酸残基の変異がループの可動性に大きく影響を与えていることが示唆された。特に、IMP-1では基質や阻害剤が存在しないときはopen型のみの構造を取るのに対し、IMP-2ではopen型またはclosed型のどちらの構造も取りえることがわかった。このようにIMP-2とIMP-1のループの可動性は大きく異なっていることがわかった本研究により明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画では、ドッキングシミュレーションによる阻害剤のデザイン、合成と最適化であった。今回、Acinetobacter spp.由来のIMP-2メタロ‐β‐ラクタマーゼの分子構造決定に成功した。この分子構造を基にクエン酸誘導体がメタロ‐β‐ラクタマーゼの阻害剤候補になりえることを見出した。この理由により、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
すでに3つのクエン酸誘導体の合成に成功した。さらに、親化合物であるクエン酸とIMP-1メタロ‐β‐ラクタマーゼ複合体の結晶化にも成功している。平成27年度では、平成26年度の知見と今回のクエン酸-IMP-1複合体構造の結果を基にドッキングシミュレ-ションによる阻害剤の化学構造の最適化と合成を引き続き行っていく予定てある。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度ではIMP-2メタロ-β-ラクタマーゼの酵素の培養・精製、結晶化ならびにX線結晶構造解析が予想以上にうまく進行したため、試薬やガラス器具などの消耗品費がかからなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度では、数種のメタロ-β-ラクタマーゼの大量培養・精製、結晶化を予定している。これらの実験には高額の試薬の購入が必要であり、平成26年度未使用分も含めて消耗品費に充てる。
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