β-ラクタム剤は感染症治療において頻繁に用いられている抗菌剤であるが、この薬剤に対して耐性を獲得した病原菌が出現し、各国の医療施設で大きな問題となっている。その原因の一つにメタロ-β-ラクタマーゼの産生が挙げられる。しかし、メタロ-β-ラクタマーゼの現在臨床で用いられている阻害剤はなく、その開発が緊急の課題となっている。本研究では臨床で有効なメタロ-β-ラクタマーゼ阻害剤の開発を目指した。ごく最近、我々はIMP-1メタロ-β-ラクタマーゼ-クエン酸複合体の結晶構造を明らかにした。この結晶構造によれば、クエン酸の3つのカルボキシ基のうち、一つはどのアミノ酸残基とも相互作用せず遊離の状態で存在していた。残りのカルボキシ基の2つのうち一つはメタロ-β-ラクタマーゼ活性中心の亜鉛(II)と配位結合し、もう一つはアスパラギンやリジン残基と水素結合ならびに疎水性相互作用をしていた。そこでこの結晶構造を基に、7種類のクエン酸類縁を分子設計した。つぎに、合成した化合物のIMP-1メタロ-β-ラクタマーゼに対する阻害活性を酵素科学的に評価した。合成化合物の中で2-hydroxy-4-oxo-2-(2-oxo2-phenethoxylethyl)-4-phenethoxybutanoic acidは弱いながらも阻害活性(IC50 = 500 μM)が認められたが、メチレン鎖を一つ伸ばした2-hydroxy-4-oxo-2-(2-oxo-2-(3-phenylpropoxy)ethyl)-4-(3-phenylproposy)butanoic acidやdimethyl 3-aminopentanedioateではまったく阻害活性は認められなかった。この結果から、メチレン鎖の長さとベンゼン環が阻害活性発現に重要であることがわかった。
|