研究課題
癌に関与する亜鉛蛋白質は様々なものが知られている.本研究では,その中で腫瘍細胞の転移に関与するADAM17,上皮間葉転換に関与する転写因子Snail,細胞の増殖に関与するRas蛋白の翻訳後修飾に必須であるファルネシルトランスフェラーゼを標的とする新規抗癌剤の創製を目的とする.標的とするこれらの蛋白質は,機能発現に亜鉛が必須であるため,蛋白から亜鉛を引き抜く,あるいは蛋白中の亜鉛に配位する化合物はその活性を阻害できると考えられる. そこで,我々が開発した亜鉛配位子に蛋白質特異的な認識部位を連結した化合物を設計合成することとした.ADAM17の阻害剤として,ブチニルオキシフェニル基を蛋白認識部位とした化合物を合成した.チオール基の保護基として導入したt-ブチル基を2-ニトロフェニルスルフェニルクロリドを用いて脱保護した.脱保護反応でアミノ基に結合した2-ニトロスルフェニル(Nps)基を塩酸を用いて除去し,チオール基がNps基とジスルフィド結合した化合物を得た.Nps基は,細胞内の還元的環境で除去されると考えられるので,TNF-α切断阻害活性を検討した.はじめにADAM17阻害剤蛍光測定キットを用いて活性評価を行ったが,うまくいかなかった.そこで,THP-1細胞を用いて阻害活性を検討したところ,10μMの濃度で細胞毒性を示すことなくTNF-αの切断を阻害することがわかった.認識部位を持たない化合物では,同濃度で細胞毒性を示した.ELISAを用いてIC50を求めたところ3.22μMであった.これは,コントロールとして使用したMarimastat(IC50=4.75μM)と同程度であった.
2: おおむね順調に進展している
ADAM17阻害剤として,ブチニルオキシフェニル基を認識部位に持つ化合物の合成を完了した.THP-1細胞を使ったTNF-α切断阻害実験で,細胞毒性を示すことなくmarimastatと同程度の阻害活性を持つことを見いだすことができた.
合成が完了した化合物について,Pro-TNF-αを基質としたin vitroでの活性を検討する.また,がん細胞の移動と関連があるCD44の切断阻害活性を検討する.活性のあった化合物の構造変換を行い,より強い活性を持った化合物の合成を検討する.
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Bioorganic & Medicinal Chemistry
巻: 23 ページ: 5476-5482
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