研究課題
1.AKRの特異的阻害剤の創製:最も強い阻害活性を示した化合物の酵素補酵素複合体への分子モデリングを行った。構造活性相関から活性に必須であることが示唆されていたクロメン環7位の水酸基はAKR1B10の触媒残基であるHis111と水素結合可能な位置にあり、この相互作用は過去に報告された強力な阻害剤で見られたものと同じであった。また、もう一つの水酸基は選択性に重要であることが知られるLys125に隣接するPro124の主鎖カルボニル基と水素結合することが予想された。本化合物のさらなる有用性を提示するために、肺癌治療に用いられるシスプラチン (CDDP) に耐性をもつ肺癌細胞株を樹立した。本化合物はCDDP耐性肺癌細胞のCDDP感受性を有意に回復させた。また、CDDP添加によって、親細胞株は増殖しないが、耐性細胞では細胞増殖するコンディションにおいて、本化合物は細胞増殖を抑制したことから、CDDP耐性に対して克服効果を示すことも明らかとなった。2.AKRの一塩基多型 (SNP):家族性筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 患者のwhole exome sequencingによりこれまでにExACデータベースに登録されていないAKR1C3の新たな変異C154Y、L159Vを見出した。C154およびL159は本酵素の活性部位ポケットではなく、α-へリックス上に位置する。そのため、酵素活性ではなく、構造安定性に影響を与えることが予想された。そこで、これら変異を導入したリコンビナント酵素を調製し、安定性に及ぼす影響を検討した。C154Y変異体は有意にUreaやGuanidineのような変性剤や熱に対してWTやL159V変異体よりも高い感受性を示し、37℃、30分のインキュベーションで活性は90%低下した。現在その原因を熱力学的、物理化学的に解析しているところである。
2: おおむね順調に進展している
昨年度に続き、AKRの特異歴阻害剤の創製に関しては、順調に結果が得られており、知財化についても検討しているところである。また、AKRの一塩基多型解析についても家族性ALSのwhole exome sequencingにより、いくつかの新規AKR SNPsを見出すことができた。この中の一つAKR1C3 C154Y変異については安定性低下に起因したloss-of-function変異である可能性も考えられ、大変興味深い。
AKRの特異的阻害剤については、in vitroで肺癌細胞に対する増殖抑制効果やCDDP耐性に対する克服効果を示すことができた。今後、in vivoでの評価を行う予定である。家族性ALS患者から見出した新規SNPsの性状解析を行い、疾患との関連性について検討する。
次年度、培養細胞実験と動物実験を実施するにあたり、想定以上に研究費が必要であることが考えられたため、使用額の調整を行った。
上記理由のため、使用計画については当初予定していたものから大幅な変更はない。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
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