研究課題/領域番号 |
26460150
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
小郷 尚久 静岡県立大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (20501307)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 抗がん剤 / システイン誘導体 / 構造最適化 / KSP / 抗腫瘍効果 / 溶解度 |
研究実績の概要 |
本研究は、キネシンモーターKinesin spindle protein(KSP)を標的にシステインを基本骨格に構造最適化を進め、次世代抗がん剤として有望なリード候補創製を目的とする。平成26年度は、初期リードであるシステイン誘導体(A)を基に、そのトリチル部の構造最適化を実施した。まずトリチル部のPh基ひとつ又はふたつを置換基導入したPh基やチオフェンなどの複素環に変換した誘導体を合成し評価したが、大幅な活性向上には至らなかった。次にトリチル部のPh環同士をアルキル鎖で架橋した化合物(B)を合成し評価したところ、スクリーニングヒットS-trityl-L-cysteineと比べ約8倍ATPase活性が向上することが判明した。そこで既に報告されている阻害剤とKSPの共結晶構造を参考にBのbinding mode解析を試みた。その結果Ph環間に導入したエチレンリンカーは、KSP Tyr211, Leu214との間で新たなvan der Waals相互作用が示唆された。さらに架橋していないPh環への置換基効果が期待でき、実際に誘導体を合成し評価したところナノモルレベルの阻害剤を複数見出すことに成功した。これら新規誘導体は他のキネシンには作用せず、KSP阻害特有の表現型を示した。また一連の誘導体間でKSP ATPase阻害と細胞増殖阻害に良好な相関性もみられた。医薬品開発する上で重要な化合物の物性検討に関しては、骨格中のカルボン酸に着目、そのナトリウム塩を調製することでKSP阻害活性に影響せず溶解性が向上することを見出した。ヒトがん移植ヌードマウスモデルでの強力な抗腫瘍活性も確認できており、これら新規誘導体のKSP阻害に基づく新規抗がん剤候補としての可能性が示唆された。これらの研究成果について平成26年度日本薬学会メディシナルケミストリーシンポジウム優秀賞を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、システイン化合物を基本骨格にしたトリチル部の多様な構造最適化と新規誘導体の物性改善検討を行う計画であった。予定していた研究項目はおおむね着手することができた。特に合成展開で得た新規システイン誘導体はKSP阻害に基づく抗がん活性の向上(ナノモルオーダー)を達成し、動物モデルでの初期薬効評価を行うこともでき、想定以上の研究成果を得ることができた。物性改善検討でも、フリーのカルボン酸をナトリウム塩とすることにより溶解度向上を達成できた。実際の溶解度測定は未実施であり、併せて溶液での安定性など詳細な検討は今後必要になるが、本知見はカルボキシル部のさらなる変換への足掛かりになると考えている。全体3年計画中、1年目に予定していた実施計画通りに進捗を達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
システイン誘導体の構造最適化研究は今後も精力的に継続し、高活性な新規誘導体の溶解性や安定性評価を進め、既存開発薬との差別化を行い臨床開発候補へと繋がる研究を行っていきたいと考えている。具体的には、水溶性プロドラッグ化も視野に入れたカルボキシル部のエステル化や極性基導入などの多様な変換を行う。誘導体の構造最適化に関しては、ある程度のSAR情報を取得できているため、リードホッピング的にシステイン構造の変換検討を含め合成展開を行う。既存開発薬との差別化に関しては、KSP阻害剤として臨床開発が先行しているfilanesib (ARRY-520)との比較検討をすすめる。さらに高活性な新規誘導体のビーズ固定化や蛍光標識プローブ化を試みて、KSP阻害作用メカニズム(細胞内局在)解析やシステイン誘導体のKSP以外の標的探索にも挑戦する。これらの研究を通じて、新規システイン誘導体のKSP阻害に基づく次世代抗がん剤としての可能性と意義・重要性を見出していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、誘導体合成などの研究が予想以上に順調に進展したことにより物品費の支出を当初計画から若干抑えることができたため、その助成金を平成27年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、当初計画通り物品費、旅費、論文投稿料、成果発表(第74回日本癌学会を予定)のための学会参加費等に使用する予定であるが、特に物品費について、当初計画した誘導体合成のための試薬類(シリカゲル等を含む)、有機溶媒(反応溶媒、クロマトグラフィー用有機溶媒等)、汎用するガラス器具(反応容器等)の他、ビーズ固定化や蛍光標識プローブ化のために新規誘導体を中量合成するための試薬およびそれらの機能評価を行うための生化学試薬類、器具類を平成26年度繰り越した助成金と併せて活用し充当する予定である。
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