研究課題/領域番号 |
26460153
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
福原 潔 昭和大学, 薬学部, 教授 (70189968)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / アミロイドβ / 抗酸化物質 / ビタミンE |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病の原因は高い凝集能と強力な神経細胞毒性を有するアミロイドβタンパク質(Aβ)であると考えられている。Aβにはアミノ酸残基数の違いによりAβ1-40、Aβ1-42、Aβ1-43が存在する。Aβ1-42およびAβ1-43はAβ1-40よりもC末端に二残基または三残基多く、C末端間で安定に相互作用できるため特に高い凝集能を有する。また、凝集過程で発生する活性酸素が神経細胞毒性の一因であると報告されている。我々はこれらの機構を妨げることでアルツハイマー病の進行の抑制が可能と考えた。そこで、H26年度はAβの凝集能を高めているAβ1-42およびAβ1-43のC末端モチーフ(Aβn-42、Aβn-43 (n=34, 36, 38, 40))をAβ1-42と相補的に結合する構造として利用し、そこの抗酸化物質のビタミンEの芳香環部分(Trolox: Tx)を導入したTxAβn-42およびTxAβn-43を合成・設計し、凝集阻害活性を解析した。その結果、Tx構造を持たないAβn-42、Aβn-43の凝集阻害作用は非常に弱いのに対し、Tx構造を付加させたTxAβn-42、TxAβn-43はAβ1-42の凝集を強く阻害することがわかった。凝集阻害作用はペプチド鎖の伸張とともに増強し、TxAβ34-42、TxAβ34-43は最も強力にAβの凝集を阻害した。また、Aβ1-40のC末端モチーフとそのTx付加体は全く凝集阻害能を示さなかった。以上の結果より、高い凝集能を有するAβ1-42、Aβ1-43のC末端ペプチドモチーフはTxを付加させることで、Aβの凝集阻害活性を有することが明らかとなった。AβはC末端ペプチドが分子間でβシートをとることで凝集が進行するが、Aβn-42、Aβn-43のAβに対する親和性はTxが付加することで増強していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26年度はAβのC末端モチーフとフェノール性抗酸化物質からなる化合物の合成を予定しており、Aβの原因物質であり、その凝集が問題となっているAβ1-42のC末端モチーフ4種類の合成、および合成したペプチドのN末端にビタミンEの芳香環部分(Trolox: Tx)を付加することで目的物を得ることができた。また、Aβ1-42よりもさらに凝集能と神経毒性が強いAβ1-43についても、そのC末端モチーフ4種類を合成し、N末端にTxの付加を行うことができた。対照物質として、凝集性が弱く毒性が低いAβ1-42について、そのC末端モチーフのTxの付加体、およびTx構造を持たないAβ1-40、Aβ1-42、Aβ1-43のC末端モチーフについても合成することができた。HPLCによる合成化合物の精製は分離条件の検討が難しく、また、精製に時間を要したものの高純度の目的物を得ることができた。なお合成化合物としては、C末端モチーフへの他のフェノール性抗酸化物質の導入も計画しており、現在、カテキン誘導体とカフェ酸を結合させたC末端モチーフ誘導体の合成を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
1. 合成した化合物の抗酸化活性、Aβ1-42及びAβ1-43の凝集反応に対する阻害活性、Aβ1-42及びAβ1-43の神経細胞毒性に対する抑制効果を明らかにする。 a) 抗酸化活性:活性酸素のモデル化合物に対するラジカル消去反応を用いて速度論的解析を行う。b) 凝集阻害活性:チオフラビンT法を用いて、Aβ1-42及びAβ1-43の凝集反応に対する阻害効果を明らかにする。強力な凝集阻害効果を示した化合物については,円偏光二色性スペクトルを測定して、Aβの立体構造への化合物の相互作用を解析する.c) 神経細胞毒性抑制効果: Aβ1-42及びAβ1-43は凝集の過程で活性酸素を発生して神経細胞(SH-SY5Y)にアポトーシスを誘導する。この系に化合物を添加して神経細胞毒性に対する抑制効果を評価し、ペプチドフラグメントの部分とフェノール性抗酸化物質についての構造活性相関を明らかにする。 2. 神経細胞毒性を強力に阻害した化合物は、アルツハイマー病モデルマウスに投与してNMRメタボローム解析を行い、アルツハイマー病の発症と病態の進行に対する予防と治療効果を明らかにする。申請者は変異型アミロイド前駆蛋白質を発現するトランスジェニックマウス(Taconic輸入動物,日本クレアより購入)の尿と血清についてNMRメタボローム解析を行い,アルツハイマー病の発症前(4ヶ月齢)と発症前期(10ヶ月齢)、発症後期(15ヶ月齢)にそれぞれ特徴的に変動する代謝物を明らかにした(J. Clin. Biochem. Nutr., 52, 133. 2013)。本研究では同じモデルマウスに化合物を投与してNMRメタボローム解析を行い、病態に特徴的に変動する代謝物を診断バイオマーカーとしてモニタリングすることで、アルツハイマー病の発症予防と病態の進行に対する予防効果を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では合成した化合物について、アルツハイマー病のモデルマウスに投与してNMRメタボローム解析を行い、アルツハイマー病の発症と病態の進行に対する予防と治療効果を明らかにする為に、動物実験倫理委員会に動物実験の申請を行っている。しかし、未だ承認されていない為、一連の研究費の支払いが遅れている。
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次年度使用額の使用計画 |
研究はほぼ当初の予定通りに進んでいるので、問題はない。
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