研究課題/領域番号 |
26460158
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
津吹 政可 星薬科大学, 薬学部, 教授 (90163865)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インフルエンザ / ヘマグルチニン / ムメフラール / 不斉合成 / キラル分割 / 共結晶 / 構造活性相関 |
研究実績の概要 |
毎年流行を繰り返してきたインフルエンザのうち最も恐れられているのは、強毒化した新型鳥インフルエンザウィルスであるが、この感染症を制御するにはワクチンに加えて抗インフルエンザウィルス薬の開発が重要となる。これまでに抗インフルエンザウィルス薬として臨床上で使用されてきたアマンタジンやタミフルにも、既に抵抗性を示すウィルスの出現が広範に認められている。このような状況の下、新たな創薬ターゲットを基盤とした薬剤の開発が求められている。本研究では、インフルエンザウィルスの宿主細胞への感染に関与するヘマグルチニン(HA)を阻害することでウィルスの増殖を抑制できることに着目して、HAと宿主細胞との結合阻害剤が新規抗インフルエンザウィルス薬として期待できるものと考え、フラン誘導体であるムメフラールのHAにおける阻害作用発現機序の解明とその構造活性相関研究を通してリード化合物の開発を目指すものである。本年度は、キラルカラムを用いることでムメフラールの鏡像体の光学分割に成功したので、両鏡像体の絶対配置を決定する目的で(S)-リンゴ酸からの不斉合成を行った。即ち、(S)-リンゴ酸から7工程、総収率5%で(R)-ムメフラールの合成に成功した。(S)-体に関しても(R)-リンゴ酸より調製を行った。既に、インフルエンザウィルスの増殖抑制にはムメフラール構造のうちヒドロキシジカルボン酸単位が必須であることも判明しており、ムメフラールのみならずその類縁体合成においても光学活性体の供給を可能とするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ムメフラールの合成経路はすでに昨年度に確立したので、続いて不斉合成法の確立を検討した。キラル源としてヒドロキシジカルボン酸単位を有するリンゴ酸を用いた。Seebachらの条件に従い(S)-リンゴ酸から1,3-ジオキソラノンに誘導後、酢酸単位としてアリル基を導入し、ジオキソラノンを開環して生ずるジカルボン酸をPMBエステルとして保護した。さらに、アリル基を酸化的開裂に付して酢酸単位に誘導した。最後にホルミルフリルアルコールとのエステル化、ついでPMB基を除去することで(R)-ムメフラールの合成に成功した。 本不斉合成法は、キラル源であるリンゴ酸の両鏡像体を適宜選択することで (S)-ムメフラールの調製も可能であり、従ってエステルにおけるアルコール部分を変換することで種々の光学活性な誘導体の合成が可能となるものである。
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今後の研究の推進方策 |
ムメフラールの合成法並びに不斉合成法が共に確立されたことで、各種誘導体の合成が容易に行える。具体的には、ムメフラール合成における重要中間体である2つのカルボキシ基が保護されたカルボン酸においてエステルのアルコール単位を置き換えることで、さまざまなエステルの合成が可能となる。さらに、各種アミンとの間で縮合すれば、アミドの誘導体も調製可能である。また、エステルの代わりに炭素アナログの合成も検討中である。 現在までにインフルエンザウィルスの増殖抑制にはムメフラール構造のうちヒドロキシジカルボン酸単位が必須であることも判明しており、エステル部分に関してはホルミルフルフリルアルコール単位は必ずしも必須の構造単位ではないことが明らかとなった。そこで、エステル部に関しては、フルフラール部分を他の芳香環部への置換し、ベンゼン環上に各種官能基を導入して構造活性相関を検討中する予定である。 ムメフラールとHAとの共結晶の作成を検討中であり、得られた構造を参考にして、ムメフラール-HA複合体のフラグメント分子軌道(FMO)法に基づく全電子計算を行い、その複合体の理論的相互作用解析、さらにMolecular Dynamics (MD) Simulationを用いて動的構造変化を実行し、作用部位と結合様式を明らかにしたい。
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