研究課題/領域番号 |
26460160
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研究機関 | 大阪薬科大学 |
研究代表者 |
春沢 信哉 大阪薬科大学, 薬学部, 教授 (90167601)
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研究分担者 |
高岡 昌徳 大阪薬科大学, 薬学部, 教授 (50140231)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | H3R / アンタゴニスト / イソチオウレア / 効率合成法 / ヒト乳癌細胞 / アポトーシス / 増殖抑制 |
研究実績の概要 |
ヒスタミンH3レセプター(H3R)アンタゴニストは、中枢疾患の新治療薬として長く期待されていたが、ついに今年フランスでナルコレプシーの治療薬としてpitolisantが承認され新しい局面を迎えた。 一方、我々は、相同性の高いH4Rに作用せず、さらにヒトに強い作用を示すもののラットに全く作用しないというユニークな動物間種差を示すH3RアンタゴニストOUP-186を開発した。 我々の研究は、このように特異な作用をもつOUP-186から新しいタイプの乳癌増殖抑制物質を開発するという今日まで行われることのなかった独自の研究を進める事にあった。すでに、申請時にOUP-186及びその誘導体がヒト乳癌細胞に対して強い増殖抑制作用を示す事、またそれは、細胞死を誘導するものである事等を示していた。 H26年度の研究は、先の実施計画に沿って、大阪薬科大学、有機薬化学研究室では、OUP化合物の基本構造の「N-alkyl-S-alkylisothiourea構造の効率合成法の開発」と同大学の生体機能解析学研究室での「3種のヒト乳癌細胞でのOUP化合物の薬理学評価」を行うことであった。 前者の合成研究では、新たにSCN原子の導入剤としてNPAIを新たに開発し、以前の方法より高収率かつ迅速にOUP化合物を得ることができる合成法を開発し、学会発表を経た後、すでにSynthesis誌(2015,Vol47,1291-1302)にその成果を発表した。また、生体機能解析学研究室では、OUP-186の細胞死がアポトーシスによるものであることを示す有力な結果を得、その成果は、昨年秋に日本生化学会、日本ヒスタミン学会等で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
春沢らのOUP-186の基本骨格であるN-alkyl-S-alkylisothioureaの合成は、これまで合成できるものの高収率、効率的に合成することは困難であった。その原因は、主に分子間脱アシル化反応により合成が行われてきたためであった。昨年度、新しいSCN原子導入剤としてNPAIを新たに開発することで、分子内脱アシル化反応を可能とし、OUP化合物の効率合成法を開発することができた。その成果は、日本薬学会、日本ヒスタミン学会で発表するとともに本年に入ってSynthesis誌(2015,Vol47,1291-1302)に報告している。 また、共同研究者の高岡らは、ヒト乳がん細胞に対するOUP-186の影響をトリパンブルー排除法を用いて確認したところ、OUP-186は、MDA-MB-231細胞およびMCF7細胞に対して濃度依存的、時間依存的に細胞死を引きおこす事。さらに、Caspase-3またはCaspase-7の活性化を誘導していることを認めたため、OUP-186による乳癌の細胞死は、アポトーシスによるものであることを強く示唆する結果を得た。この成果は、第87回日本生化学会大会(2014年10月15-18日、国立京都国際会館、3P-298)で発表している。さらに、現在、高岡らによってそれらの成果を学術論文として発表する準備をしている。 以上の理由から、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは、N-alkyl-S-alkylisothiourea構造を持つ化合物群から強力なH3Rアンタゴニストであり、かつ強い乳癌増殖抑制作用を示すOUP-186を見出してきた。今後は、新しいOUP化合物の効率合成法を用いてOUP-186の乳癌増殖抑制作用 [IC50: MDA-MB-231(10 x10-6 M); MCF7(10 x10-6 M)]をさらに増強した化合物の絞り込みを行う。すでに、疎水性のフェニル基にClとCF3を同時に導入したOUP-199では、OUP-186より約2倍の乳癌増殖抑制作用を見出している [IC50: MDA-MB-231(5 x10-6 M); MCF7(3 x10-6 M)]。さらに、N-alkyl-S-alkylisothiourea構造より、化学的に安定な新規基本骨格をもつ化合物群をデザインし、その中から強力な乳癌増殖抑制物質を開発する予定である。 一方、OUP化合物の乳癌細胞への研究では、新たに既存の抗癌剤との比較、正常細胞での挙動、乳癌以外のほかの癌細胞への抑制効果の研究、さらに、これらの癌細胞抑制効果とH3Rとの関係の解明が今後の研究課題となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者の高岡昌徳教授が3月に病気のため急遽入院し、高岡教授の分担金の最終決算の承認が取れなかったため、やもえず次年度繰使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗費としてすぐ使用する。
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