研究実績の概要 |
ヒスタミンH3受容体(H3R)は、脳の賦活化と調節を行っている。H3Rアンタゴニストは、アルツハイマー病などの中枢疾患の治療薬として期待されている。H3Rアンタゴニスト開発には、H3Rが、末梢にあるヒスタミンH4受容体(H4R)と相同性が高いため、H3Rに選択性を示す化合物が必要である。一昨年、フランスで開発されたH3Rアンタゴニスト、pitolisantは、初めてナルコレプシーの治療薬として承認された。 我々は、特異なH3RアンタゴニストとしてN-[4-(4-chlorophenyl)butyl]-S-[3-piperidin-1-yl)propyl]isothioures(OUP-186)を発表したが(Bioorg. & Med. Chem. Lett., Vol. 23, 6415, 2015)、OUP-186は、H4Rに作用しない強力なH3R選択的アンタゴニストである。さらに、OUP-186は、ヒトのH3Rには、強力であるもののラットには全く活性を示さないという種選択性をもつ。これは、他のH3Rアンタゴニストには見られなかった極めて特異なものである。 一方、H3Rは、癌の発生に関係している可能性を示唆する報告があることから、この新しいタイプのOUP-186に乳癌の増殖抑制を期待したところ、ヒト乳癌細胞に対して著しい増殖抑制作用を発見した。本研究期間の実績は、OUP-186の基本骨格であるN-alkyl-N'-alkylisothioureaの合成法の確立(Synthesis, Vol. 47, 1291, 2015)と、OUP-186の増殖抑制を速報したことにある(BioChem. Biophys. Res., Commun., Vol. 480, 479,2016)、さらにそれらの成果を総説(薬誌,Vol. 136,1217, 2016)として発表した。
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