研究課題/領域番号 |
26460162
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研究機関 | 大阪大谷大学 |
研究代表者 |
広川 美視 大阪大谷大学, 薬学部, 准教授 (40454582)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 抗生物質 / 多剤耐性菌 / リューロムチリン / 創薬研究 |
研究実績の概要 |
多剤耐性菌に有効かつ交差耐性のない,既存の抗菌薬とは違った構造を持つ新規抗菌剤の創薬研究に着手している。現在までに、5-6-8員環縮合構造を持つ三環系ジテルペノイド・リューロムチリンに、核酸塩基の一つであるプリン環にヘテロ環アミン及び直鎖カルボン酸を導入したプリンカルボン酸誘導体を導入するという独自のアイデアにより、高い抗菌活性を持ちながらリューロムチリン誘導体において克服が難しいとされている水に対する良好な溶解性を持たせることに成功している。さらに、これまでの研究結果から、スペーサー部位との結合様式をカルバメート型に変更した化合物は、水溶性を保持しつつ多剤耐性菌に対して感受性菌と同等の強い抗菌活性を示すことがわかった。そこで今年度より、プリン環とスペーサー部位との結合様式をカルバメートに固定し、プリン環に導入するヘテロ環を変化させた化合物の合成研究を開始した。具体的には、重要中間体である1-(6-置換―9H-プリン-9―イル)メチル4―ベンジルピペラジン1、4―ジカルボキシレート及び1-(2-アミノ-6-置換―9H-プリン-9―イル)メチル4―ベンジルピペラジン1、4―ジカルボキシレートの合成を、市販の6-クロロプリン又は、2-アミノ-6-クロロプリンを出発原料とし、4員環から6員環の各種ヘテロ環の導入と、1-クロロメチル4-ベンジルピペラジン1、4-ジカルボキシレートとの反応により行った。各種へテロ環は、市販品から誘導し、また、導入する順番はヘテロ環の種類に応じて最適な方法を選択した。目的とする新規化合物は、この重要中間体より2~3工程で合成した。 合成新規化合物に対して、適宜、標準的な感受性菌を指標にした抗菌活性を調べ、高い抗菌活性を持つ有望化合物に対して、外部に抗菌活性(耐性菌に対する抗菌活性及びin vivo活性等)の測定を依頼した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、プリン環の6位クロロ基とヘテロ環内の窒素原子との反応により得られた誘導体から新規化合物を合成してきた。しかし、これら新規化合物が特許のクレームの範囲内に入っていたことが判明したため、特許取得に向けて新規性のある化合物の分子設計を行い、ヘテロ環内の窒素原子ではなく、別の位置や他の原子で置換した化合物の合成を検討した。ヘテロ環内の窒素原子での反応は比較的容易であったが、目的とする位置等でのヘテロ環のプリン環への導入は、スペーサー部位との結合様式がカルバメートであることがマイナスに作用し、満足のいく収率で目的物を得ることができなかった。条件を検討しつつ目的物を得ているが、1-(6-クロロ―9H-プリン-9―イル)メチル4―ベンジルピペラジン1、4―ジカルボキシレートと各種ヘテロ環との反応における収率は39~83%、1-(2―アミノ-6-クロロ―9H-プリン-9―イル)メチル4―ベンジルピペラジン1、4―ジカルボキシレートと各種へテロ環との反応における収率は28~49%と、低収率であり、一部反応分解生成物である6-ヘテロ環置換―9H-プリンも生成していた。6-置換―9H-プリンと1-クロロメチル4-ベンジルピペラジン1、4-ジカルボキシレートとの反応では、7位置換体と9位置換体がほぼ1:1で得られ、期待に反し選択性はなかった。最終生成物へは、この中間体より2~3工程で合成でき、各反応の収率は比較的高収率であった。 最終目的物を合成し、活性評価を行えている点において順調に進展しているが、重要中間体の合成において、収率、選択性等に問題を残しており今後の更なる検討が必要である点においては、遅れているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度合成した新規化合物の活性評価の結果、黄色ブドウ球菌感受性菌(S. aureus FDA209P;<0.25μg/mL)および多剤耐性菌(S. aureus KMP-9;<2μg/mL)に対して強い抗菌活性を示すことがわかった。しかし,窒素置換体に比較し、多剤耐性菌に対する抗菌活性が若干弱い結果となった。カイコを用いたin vivo抗菌活性試験では、これらの化合物は良好な治療効果が認められ、ED50とMICの比が全体的に大きく向上していた。即ち優れた体内動態を有していることがわかった。特筆すべきは、高い活性を保持しつつ医薬品として開発するために必要なED50/MICが10以下となる化合物が複数得られていることである。今後も引き続き新規化合物の合成を行い、若干低下した多剤耐性菌に対する活性の向上を図るともに、in vivo抗菌活性のさらなる向上を目指し構造変換を行う。具体的には、ヘテロ環の変換(環の大きさ、ヘテロ原子の変換等)および、ヘテロ環内の窒素原子への置換基の導入等の合成を検討する。また、ヘテロ環内の窒素原子へ脂溶性の高い置換基を導入しない限り水溶性に問題がないことから、脂溶性置換基と水溶性との相関についても調査する予定である。 新規合成化合物は、標準的な黄色ブドウ球菌感受性菌を指標にした抗菌活性評価を行い、有望化合物においては、外部機関による多剤耐性菌(S. aureus KMP-9)に対するin vivo抗菌活性の測定および抗菌活性の測定を依頼する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新規合成化合物の多剤耐性菌に対する抗菌活性およびカイコを用いたin vivo抗菌活性評価を外部機関に依頼するための費用として残していた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、26年度同様、有機合成化学による新規化合物の創製研究および一般的な感受性菌に対する抗菌活性測定試験および、有望な化合物の多剤耐性菌への効果とin vivo活性の評価を外部機関に依頼する予定である。参加学会としては、メディシナルケミストリーシンポジウム、化学療法学会を予定している。内訳は、新規化合物合成に使用する試薬等の費用30万円、学会参加費10万円、抗菌活性外部依頼費(その他)69万円である。
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