研究課題
日本は急速に高齢化社会に移行しており、アルツハイマー病(AD)患者の増加は国家の基盤を揺るがす社会問題となっている。ドイツの精神科医 Alois Alzheimer の最初の症例の報告から100年以上経つが、いまだに根本的治療薬は存在しない。アミロイドβ (Aβ) ペプチドをターゲットとした薬剤はいくつか臨床試験に入っていっるが、一つの薬剤のみで認知機能を改善した例はない。本研究課題では、Aβの凝集およびBACE1の阻害剤の開発を目指した。①Aβの凝集阻害剤の開発本研究代表者はすでにAβのターン構造、すなわちAβの立体構造を認識して阻害する化合物を開発した。Aβの立体構造を認識する物質は抗体を除き、低分子化合物としては世界初である。溶液中におけるAβ凝集体の立体構造はいくつか報告されており、その中で特定の構造が神経毒性を持っていると考えられる。この阻害剤を用いれば、神経毒性を持つAβコンホマーのみを効率的に阻害できる薬剤や、Aβによる神経毒性機構の解析が可能になると思われる。さらに天然アミノ酸のみで構成されたペプチド型凝集阻害剤の開発にも成功した。このペプチド配列をコードしたDNAを用いたAD治療にも道が開かれると思われる。②BACE1阻害剤の開発本研究代表者はBACE1の基質認識部位と阻害剤の相互作用には、BACE1のArg235側鎖のグアニジル基とのσ-π相互作用やπ-πスタッキングのような量子化学的相互作用が重要な意味を持つことを見出し、強力なBACE1阻害剤を設計・合成した。これらの化合物は和光純薬工業株式会社から研究用試薬として発売するなど、AD研究に貢献している。さらに実用的な治療薬を目指してP1'部位に疎水性の複素環を導入した阻害剤を開発した。さらにまだ阻害活性は低いが、新規骨格を有する低分子型阻害剤も見出しており、近い将来、特許出願も視野に入れている。
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Molecules
巻: 22 ページ: 1-12
10.3390/molecules22111991
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