研究課題/領域番号 |
26460170
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 勉 東北大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (00400474)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | メチル水銀 / セクレトグロビン |
研究実績の概要 |
メチル水銀は中枢神経に選択毒性を示すが、その毒性発現機構はほとんど明らかにされていない。本申請者は、メチル水銀投与によって脳特異的に上昇する蛋白質としてセクレトグロビン(低分子量の分泌性蛋白質)ファミリーに属するScgb3a1を同定している。本研究では、メチル水銀によるScgb3a1の発現誘導とメチル水銀毒性軽減との関係について培養細胞およびマウスを用いて検討した。メチル水銀によるScgb3a1の発現レベルの上昇はマウス神経前駆細胞 (C17.2細胞) でも認められ、同細胞を用いて経時的に検討したところScgb3a1の mRNAレベルの上昇はメチル水銀による細胞死(アポトーシス)が引き起こされるより早い時点で認められた。また、メチル水銀を投与したマウスにおいて免疫組織学的な解析を行ったところ、脳組織での病理変化(神経細胞数の減少)が認められる前に、Scgb3a1の発現レベルの上昇が確認された。このことから、Scgb3a1の発現誘導は、少なくともメチル水銀によって細胞が障害された結果として認められる現象ではなく、メチル水銀曝露に対する細胞応答によるものと考えられる。また、siRNAによってScgb3a1の発現を抑制したところ、C17.2細胞のメチル水銀に対する感受性が上昇した。以上の結果からScgb3a1はメチル水銀曝露に応答して脳特異的に発現誘導される防御因子として働く可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、メチル水銀によるScgb3a1の脳特異的発現誘導およびその毒性学的意義を明らかにすることを目的としている。当該年度の検討により、Scgb3a1がメチル水銀曝露に対する細胞応答として発現誘導され、また、メチル水銀毒性を軽減する可能性が示された。これまでにメチル水銀曝露に応答して脳特異的に発現誘導される防御因子に関する報告はなく、本知見が最初の例である。本研究成果は、当初の研究目的を達成する上で非常に重要な知見であることから、当初の目標を向けて順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により、Scgb3a1がメチル水銀曝露に応答して脳特異的に発現誘導される防御因子として機能していることが明らかとなった。今後、メチル水銀による脳特異的なScgb3a1発現誘導機構について検討する予定である。まず、メチル水銀によるScgb3a1の発現誘導が確認された神経由来培養細胞 (C17.2細胞)を用いて、メチル水銀によるScgb3a1の発現誘導に関わるScgb3a1のプロモーター領域およびその領域に結合する転写因子を特定する。同定された転写因子の核移行性、活性化(リン酸化)などにメチル水銀が与える影響を検討し、メチル水銀による転写因子活性化機構を明らかにする。同定された転写因子について、メチル水銀を投与したマウスの各組織における核移行性、活性化などを検討し、脳特異的な転写活性化機構を明らかにする。以上によって、メチル水銀によるScgb3a1の脳特異的な発現誘導機構を明らかにする。
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