研究実績の概要 |
記憶の分子基盤と考えられているシナプス可塑性の一つである長期増強(Long-term Potentiation, LTP)には, 細胞内Zn2+シグナリングが必要である。記憶を司る海馬では, CA3苔状線維とCA1シャーファー側枝シナプスからグルタミン酸とともに放出されるZn2+はCA3錐体細胞, CA1錐体細胞に取り込まれシグナル因子として機能する。内側貫通線維からはZn2+ が放出されないため, シナプスを形成する歯状回顆粒細胞では細胞内ストアから放出されるZn2+がシグナル因子となる。すなわち, 細胞内Zn2+シグナリングはインビボでのLTPの誘導と維持を介し, それぞれ記憶の獲得ならびに保持に必要であることを明らかにした。その一方で, 海馬神経細胞が過剰興奮すると, 細胞外Zn2+はCA1錐体細胞に過剰に流入し, CA1 LTP誘導と物体認識を可逆的に障害する。さらに神経終末からZn2+が放出されない内側貫通線維-歯状回顆粒細胞シナプスでも, シナプス興奮により細胞外に存在するZn2+が顆粒細胞に過剰に流入すると, LTP誘導が障害され, 物体認識が一過性に障害されることを明らかにした。すなわち, シナプスZn2+シグナリングは海馬依存性の長期記憶に必要である一方で, シナプスZn2+ホメオスタシスの変化が記憶障害の一因となることを明らかにした。緑茶テアニン摂取による海馬依存性の記憶向上(記憶保持時間の増加)にはnon-NMDA受容体依存性のLTPの関与があり, 海馬依存性長期記憶はLTP(おそらくnon-NMDA受容体依存性LTP)の維持を基盤とする。今後, インビボでのLTP 維持のメカニズムを解析する必要がある。
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