研究実績の概要 |
緑茶に含まれるアミノ酸のテアニンを飲水として与えると、海馬依存的な記憶保持が増強されるとのこれまでの知見に基づき、不明な点が多い記憶保持のメカニズムを検討した。本研究により、テアニン摂取は神経成長因子NGFならびに脳神経由来栄養因子BDNFの発現を介し、海馬歯状回の長期増強記憶と関係する海馬神経新生を促進し、記憶の分子基盤と考えられている長期増強(long-term potentiation, LTP)を大きくすることを見出した。一方で、海馬神経細胞におけるカルシウムチャネルを介したZn2+シグナリングがLTP誘導に必要であることをこれまでに明らかにしてきた。本研究では、記憶の獲得のみならず獲得した記憶の保持にも細胞内Zn2+シグナリングが必要であることを明らかにした。さらに、最終年度においては、海馬神経細胞において細胞外Ca2+ではなく、細胞外Zn2+が過剰に流入すると、記憶獲得が障害されるだけでなく、保持されていた記憶もLTPの維持障害を介して消失することを明らかにした。また、海馬の細胞外液には低ナノモル濃度のZn2+が存在する。LTP獲得のグルタミン酸興奮毒性、すなわちグルタミン酸受容体の異常な活性化による細胞内Ca2+増加による神経細胞死は脳虚血などの脳疾患で報告されてきた。しかし、Ca2+より細胞外Zn2+の過剰な流入が神経細胞死に強く関与するとの指摘がある。海馬神経細胞への過剰なZn2+流入によりLTPなどシナプス機能が障害されるとの新規知見が得られた。
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