2017年度は、以下の3つの実験を進めた。1)大腸菌で精製したサンプルには、コリスチンと相互作用するLPSが多く含まれている可能性があるため、これをEndoTrapカラムにより除去したサンプルを使って前年度までと同様の活性が見られるかどうか調べた。EndoTrapカラムにかけたサンプルは、EndoLISAでLPS量を定量して検出限界以下であることを確認した。LPSを除いた抗体を使った場合でも、前年度と同様の結果が得られた。混入していたLPSが、抗体によるコリスチンMIC低下作用へ影響しないと考えられた。2)組換え大腸菌からの抗体産生条件を検討し、最適化した。3)排出ポンプ(OprM)開口部細胞外突出部には、ループ1とループ2が存在し、これまでに抗ループ2抗体の併用でコリスチンのMICを1/4に低下させる効果があることを見てきた。今回、抗ループ1抗体の単量体、3量体B(C末のLeucine Zipperを介して3個束ねた抗体)を使って、同様の効果を調べた。組換え大腸菌可溶性画分からHisTrapカラムで精製した抗Loop1抗体では、単量体、3量体Bともに、同じタンパク質濃度での併用でコリスチンのMICを1/4に低下させた。このことは、緑膿菌OprM開口部細胞外突出部ループに結合する抗体がコリスチンのMICを低下させる効果があることを示す全く新しい有用な知見である。 コリスチンの副作用は腎障害と神経毒性であり、腎障害は用量依存的に発現頻度が高くなるとされる。VHH抗体とコリスチンの併用により、コリスチンの使用量を減少させることができるため、治療に用いる際の副作用発現を抑えられる可能性がある。疾患モデル動物での薬効が確認されれば、特許出願して特許を取得する価値があり、これらを医薬品として開発する製薬企業スポンサーを探せると考えている。
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