研究課題/領域番号 |
26460175
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
松岡 雅人 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (50209516)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 毒性金属 / 細胞死 / 細胞生存 / シグナル伝達 / ストレス応答 / カドミウム / Notch1 |
研究実績の概要 |
本研究は、毒性金属曝露により、細胞の生存と死を制御するシグナル伝達経路・分子の同定およびその機能を解明することを目的とする。本年度は、細胞死制御に関わる分子機構として、(1)小胞体ストレス応答、(2)リソソーム膜透過性亢進(LMP)、(3)MAPKs-AP1、(4)Notch1経路活性化、に着目し、以下の成果を得た。 1、化学物質サルブリナル(salubrinal)は、転写開始因子eIF2αの脱リン酸化抑制により、小胞体ストレスによる細胞死を抑制することが知られている。そこで、毒性(半)金属(カドミウム、ヒ素)および他の環境汚染化学物質や薬剤による細胞死に対するサルブリナルの効果とその機序について文献レビューした。その結果、サルブリナルは小胞体ストレス応答UPRのPERK/eIF2α経路のみならず、IRE1/TRAF2経路を介した細胞死抑制効果を有することを示した。 2、代表的な金属ナノマテリアルである銀ナノ粒子(AgNPs)は、A549ヒト肺胞上皮腺癌細胞において、リソソーム内pH上昇を介したAgNPs凝集とそれに伴う細胞死を誘導することを明らかにした。外来異物である金属ナノ粒子は、肺細胞のオートファジー機能障害およびLMPを惹起し、細胞障害に至る可能性があることを示した。 3、これまでに、毒性(半)金属がMAPKs活性化を介してc-Fosやc-Junの発現誘導することを報告してきた。MC3T3-E1マウス骨芽様細胞において、毒性元素フッ素の曝露時に発現上昇するc-Fosが破骨細胞分化抑制因子オステオプロテゲリン(Osteoprotegerin)の発現を制御することを示した。 4、カドミウム曝露によるNotch1経路活性化がHK-2ヒト近位尿細管由来上皮細胞のほか、A549細胞、SH-SY5Y細胞、HepG2細胞でも生じることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞の生存と死を制御する小胞体ストレス応答、オートファジー・リソソーム系、MAPKs-AP1経路の関与を明らかにし、それぞれについて専門誌上で論文発表が出来たため。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度(最終年度)は、代表的な腎毒性金属であるカドミウムを曝露した近位尿細管由来上皮細胞、神経細胞死を惹起する鉛およびトリブチルスズを曝露した神経細胞などにおける小胞体ストレスシグナリング、MAPKカスケードシグナリングとこれらのクロストークおよび細胞死への関与についての解析を行う。また、カドミウム曝露により活性化されるNotch1経路とSGK1経路を調節するストレスシグナル伝達経路の細胞生存(細胞増殖あるいは悪性形質変化)への関与についても解析をすすめる。培養細胞実験系にて毒性金属曝露による細胞の生存と死に関わる重要なシグナル伝達分子・経路を同定した上で、最終的にはそのシグナルの個体レベルでの生理機能をモデル動物(ゼブラフィッシュおよび線虫)を用いた実験系にて確認する予定である。
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