本研究は、毒性金属を始めとする有害化学物質曝露により、細胞の生存と死を制御するシグナル伝達経路・分子の同定およびその機能を解明することを目的とする。最終年度は、細胞死制御に関わる分子機構として、(1)ゼブラフィッシュを用いた小胞体ストレス応答を介したアポトーシス、(2)線虫を用いた小胞体ストレス応答を介した生育、(3)Notch1シグナル活性化と細胞増殖および悪性形質変化、(4)リソソーム機能障害とオートファジー阻害、に着目し、以下の成果を得た。 1、これまでに、トリブチルスズ曝露により、神経細胞において小胞体ストレス応答が生じることを明らかにした。今回、代表的な神経毒性物質であるアクリルアミドを曝露したゼブラフィッシュ幼生脳の神経細胞においても、小胞体ストレス応答を介するCHOP発現とアポトーシスを認めた(論文発表済み)。 2、モデル動物として線虫を用い、小胞体ストレス応答分子の生存・死への関わりを検討した。その結果、IRE-1ホモログire-1(v33)機能欠損変異体では、カドミウム曝露により、野生型N2個体に比し約40%の生育阻害を認めた(論文発表予定)。 3、カドミウム曝露によるNotch1シグナル伝達経路活性化がA549ヒト肺胞上皮腺癌細胞や他の肺癌細胞の増殖および悪性形質変化に関わっていることを明らかにした(論文発表済み)。 4、代表的な金属ナノマテリアルである銀ナノ粒子は、A549細胞において、リソソーム機能障害の結果、細胞生存に関わるオートファジーを阻害して、肺胞上皮細胞障害に至る可能性があることを明らかにした(論文発表予定)。
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