研究実績の概要 |
これまでにカルノシンが亜鉛(Zn)による神経細胞死に対して保護効果を持つことを明らかにし、虚血時の神経細胞死及び脳血管性認知症に対する予防・治療薬となり得るのでは無いかと考えて研究を行っている。本年度は、Znによる神経細胞pathwayについて他の金属イオンとの相互作用の観点から検討を行った。種々の金属イオンとZnを不死化視床下部神経細胞(GT1-7細胞)に共投与し、24時間後の細胞生存率を測定した結果、アルミニウム(Al3+)は濃度依存的にZn2+による神経細胞死を抑制するのに対して、銅イオン(Cu2+)はZnによる神経細胞死を顕著に促進することが判明した(Kawahara and Tanaka, Front Neurosci.(2017))さらに、Cu2+は小胞体ストレスを増強していることも判明した。Cu2+もZn2+と同様にシナプス小胞に局在して神経興奮時に放出されることを考えると、シナプスにおけるこのような金属間相互作用が、脳血管性認知症発症に重要な役割を果たしていることが考えられる。この実験結果から誘導されるシナプス仮説は今後の神経疾患研究に寄与すると考えられる(Kawahara et al.,Metallomics (2017)) さらに、カルノシンが抗酸化活性を持つことに着目して、肺疾患治療への応用を検討した。既にLipopolysaccharaide誘発による急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の疾患モデルを確立している。このモデルマウスに対してカルノシンを投与した結果、既存の治療薬同様の有効性を示すことが判明した (Tanaka et al., Sci Rep (2017))。本年度の研究から、カルノシンが神経疾患および肺疾患の予防・治療薬として有効であることが判明し、新たな治療法開発への手がかりが出来た。
|