白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞は、それぞれエネルギー貯蔵と脂肪燃焼による熱産生の別個の役割を持ち、発生系列も異なっている。研究代表者らは、核内受容体RXRの合成アゴニストPA024をマウスに投与すると、高脂肪食投与による肥満が抑制され、白色脂肪組織の遺伝子発現プロファイルが褐色脂肪様に変化する知見を得ている。本研究では、(1) PA024が白色脂肪を褐色脂肪様に変化する機構を、褐色細胞と同様に熱産生を促進する「ベージュ細胞」への分化誘導に着目して解析する。(2)RXRアゴニスト活性を有する内分泌攪乱物質トリブチルスズなどの有機スズ化合物が、同様に白色脂肪を褐色化する可能性を検証する。 マウス白色脂肪組織(精巣上体周囲脂肪組織)の遺伝子発現アレイデータをクラスタリング解析すると、PA024投与ではむしろ褐色脂肪組織に近い結果を得た。詳細な解析により、ミトコンドリアの構造遺伝子やエネルギー産生系、アドレナリンβ3受容体の有意な増加、ミトコンドリア脱共役因子UCP1の劇的な上昇傾向が示された。一方褐色脂肪組織ではこれらの遺伝子発現は増加しなかった。近年、白色脂肪組織において熱産生を行うベージュ細胞の存在が知られる。そこで精巣上体周囲脂肪組織由来の脂肪前駆細胞培養系、皮下脂肪組織由来の脂肪前駆細胞を用いて検討し、PA024処理によりUCP-1ならびにベージュ細胞に特徴的な遺伝子群の顕著なmRNA発現誘導を明らかにした。同様の効果は複数のRXR合成アゴニスト、ならびにRXRアゴニスト活性を示す有機スズ化合物トリブチルスズによっても示された。したがって、RXRアゴニストはベージュ細胞分化促進作用を有すること、PA024投与により白色脂肪組織のベージュ化が促進され、肥満抑制に寄与したことが推定される。
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