研究課題/領域番号 |
26460205
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
藤田 健一 昭和大学, 腫瘍分子生物学研究所, 准教授 (60281820)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イリノテカン塩酸塩 / 腎機能障害 / 蛋白結合 / 遊離形 / SN-38 / 薬物動態 |
研究実績の概要 |
本研究では,尿毒素である3-カルボキシ-4-メチル-5-プロピル-2-フランプロピオネート(CMPF), インドキシル硫酸,インドール酢酸および馬尿酸以外に,尿毒素p-クレジル硫酸が,肝細胞におけるOATP1B1を介したエストロン3硫酸の取り込みを可逆的に阻害し,さらにインドキシル硫酸が不可逆的に阻害することを初めて見いだした.これらの複合的な現象により,重篤な腎機能低下がん患者におけるSN-38 の排泄の遅延が生じた可能性が考えられた. 我々はこれまでに,重篤な腎機能低下がん患者における,SN-38の蛋白結合率は約2.5倍も低下することを見いだした.本研究では推算糸球体濾過量(eGFR) <15, 15-30, 30-60および>60 mL/minの被験者より得た血漿を用いてex vivo研究を行い,腎機能の低下に伴ってSN-38の蛋白結合率が有意に低下することを証明した.また,腎機能の極めて低下したがん患者における遊離形SN-38の血漿中濃度は,健常腎のがん患者と比較して4倍以上高いことを見いだした.遊離形SN-38濃度の上昇と排泄遅延により,腎機能の低下したがん患者においては好中球減少の遷延が見られたと考えられた. 腎機能低下患者に対する特異なイリノテカンの体内動態を解明し,さらにこれらの患者におけるイリノテカンの至適な投与設計を行うことを目的として,腎機能低下患者および健常腎の患者における塩酸イリノテカンとSN-38 の体内動態を表すphysiologically-based pharmacokinetic (PBPK)モデルを構築した. 他の抗がん薬における本現象の類似性を検証するための臨床研究のプロトコールについて,昭和大学病院以外の附属病院の倫理委員会にて承認を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,1. 重篤な腎機能低下患者におけるSN-38 の排泄の遅延メカニズムの全体像の解明,2. 重篤な腎機能低下患者にけるSN-38 の蛋白結合率低下のメカニズムの解明,3. 腎機能低下患者に対する塩酸イリノテカンの投与法の構築および臨床での検証,および4. 他の肝消失型抗がん薬についての,腎機能低下時の薬物体内動態および毒性の検討,を行う計画を立てて取り組んだ.臨床研究概要の実績に示すように,これらの目標に沿って研究は順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
腎機能の低下と共にSN-38の蛋白結合率は低下した.SN-38は血漿中において主としてアルブミンと結合することが知られている.また,多くの尿毒素がアルブミンと結合することも知られている.そこで次年度は,様々な尿毒素によるSN-38の蛋白結合の阻害効果を検討し,メカニズムを明らかにする.腎機能と尿毒素濃度の関係も同時に調べる. ヒト肝細胞のOATP1B1 および1B3 の発現抑制に関与する尿毒素を見いだす. 腎機能低下患者および健常腎の患者における塩酸イリノテカンとSN-38の体内動態を表すPBPKモデルを用いたシミュレーションにより,腎機能低下患者における特異なSN-38の体内動態のメカニズム解析およびイリノテカンの至適投与量の算出を行う.モデルの精度を上げるためにイリノテカンやSN-38の体内動態に影響を及ぼす薬物動態学的因子の発現量と腎機能の関係を調べる. 他の抗がん薬における現象の類似性を検討するための臨床研究をスタートする.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,高感度な定量分析を可能にするために日立の最新鋭の高速液体クロマトグラフ Chromaster の検出器の購入を考えて,備品費として計上した.本年度は,これらの機器を共同研究者より無償で借入れて使用することができたため,備品の購入を見送った.従って,次年度使用額が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
研究の遂行に必要な消耗品の購入,国内学会および国際学会での発表や会議のための旅費,論文執筆における英文校正費などに充てる.
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