研究実績の概要 |
研究代表者らは、サリドマイドのヒト薬物代謝酵素チトクロムP450 (P450) の一次代謝物5-水酸化体が、さらに芳香環の酸化反応を受けたヒト型反応性代謝物を、グルタチオン付加体として世界ではじめて捕捉した(Chem Res Toxicol, 23, 1018, 2010)。本研究では、これらよりヒト胎盤と肝の双方の系を活用し、活性化と解毒のバランスの上でサリドマイド反応性代謝物を補足し、ヒト特有な毒性発現バイオマーカーをin vitroおよびin vivoにて詳細に解析することを目的とした。学外研究協力者の支援を得て、酵素源としてヒト胎盤とヒト肝さらにヒト肝移植マウス生体を、基質に光学活性体サリドマイドおよびその一次代謝物を入手した。これらを活用し、サリドマイド反応性代謝物のヒト型モデル動物に及ぼす影響を、最先端のヒト肝移植モデルを使って医療薬学的・毒性学的に明かにすることとした。ヒト胎盤は国内にて正常分娩時の医療廃棄物を確保する準備が整った。ヒト肝は、フランス国立衛生研究所の薬物代謝酵素活性を保持するHepaRG細胞と後述するヒト肝移植キメラマウスを利用する準備を整えた。サリドマイド一次代謝物5-水酸化体が、さらに芳香環の酸化反応を受けたヒト型反応性代謝物が生体内で生成していることが推察された。活性化された医薬品の結合タンパクについて引き続き検討する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト特異性肝毒性の原因と考えられる反応性代謝物が、ヒト肝細胞を移植マウス生体中にて、多様なヒト肝タンパク質分子種に非特異的に結合することを、二次元電気泳動によるプロテオミクスの手法と加速器型質量分析による超低濃度14C放射能測定を組み合わせて明らかにした: Yamazaki, H., Kuribayashi, S., Inoue, T., Honda, T., Tateno, C., Oofusa, K., Ninomiya, S., Ikeda, T., Izumi, T., and Horie, T. Zone analysis by two-dimensional electrophoresis with accelerator mass spectrometry of in vivo protein bindings of idiosyncratic hepatotoxicants troglitazone and flutamide bioactivated in chimeric mice with humanized liver. Toxicol.Res., 4, 106-111, 2015 共同研究先である日京テクノス(株)により、液滴レベルの小規模スケールにおいて肝細胞機能を維持する三次元培養プレート(ハンギングプレート)が輸入されている。そこでこの新培養器材を用い、ヒト初代培養肝細胞あるいはHepaRG細胞を培養し、当初の母胎における酵素活性変動など、生体側の代謝酵素の変動を評価する目的を培養細胞系にて遂行した。小規模で培養が可能であり、その成果を発表した:Murayama, N., Usui, T., Slawny, N., Chesne, C., and Yamazaki, H. Human HepaRG cells can be cultured in hanging-drop plates for cytochrome P450 induction and function assays. Drug Metab.Lett., in press.
|