研究課題
サリドマイドの催奇形性の出現には、ヒトと動物で明快な種差が認められている。薬物代謝領域では、米国FDAが定めた代謝物の安全性試験に関するガイダンスにおいて、動物よりヒトにおける血漿中濃度が高い代謝物は不均衡性代謝物と定義されている。そこで本研究では、ヒトに特徴的であり、不均衡性代謝物と判断される血漿中濃度が高いサリドマイド代謝物について、ヒト肝移植キメラマウスを用いて詳細に検討した。ヒトにおいて主要代謝物であるサリドマイドの芳香環が二重に酸化された後のグルタチオン付加体をLC/MS-MSにて捕捉した反応性代謝物の血中濃度時間推移を明らかにした。ヒトで1日1回サリドマイド 100 mgを14日間連続投与した際の血中濃度を予測したところ、反応性代謝物の前駆体となる芳香環が酸化体は、親化合物の1/30レベルで推移することが生理学的薬物動態モデル手法により予測された。さらに、液滴レベルの小規模スケールにおいて肝細胞機能を維持する新三次元培養培養器材(ハンギングプレート)を用い、ヒト初代培養肝細胞あるいはHepaRG細胞を培養し、生体側の代謝酵素の変動を評価した。ヒトP450 3A人工染色体を有するマウスにてサリドマイドの奇形発生を確認した。
2: おおむね順調に進展している
肝細胞培養系でより生理的な条件下を再現するに当たり培地中の内因性ホルモンの影響は無視できないものである一方で、その影響について詳細な報告は少ない。特に薬物相互作用ガイドラインに関連した酵素誘導や阻害について検討するにあたり、定常状態の発現はこれらホルモンの影響を顕著に受けることから、特に培地添加物に高濃度で含まれるハイドロコルチゾンについて、誘導作用への影響を検討した。サリドマイド添加によるP450 3Aおよび2B分子種のmRNAレベルはハイドロコルチゾン添加量に依存して上昇が認められた。P450 3Aの基質であるミダゾラム水酸化酵素活性、P450 2Bの基質であるブプロピオン水酸化酵素活性についてはいずれもmRNAレベルの上昇に伴って増加傾向が認められたことから、生理的条件下で化合物の酵素誘導効果を検討するには、ハイドロコルチゾンの添加により影響を受けることが明らかとなった。高濃度でハイドロコルチゾンを添加すると、基底レベルのタンパク発現が上昇し、見かけの誘導効果が減弱して観察される可能性が示唆された。ヒト胎盤由来BeWo細胞は、これまでヒト肝代謝酵素P450 1A2, 3AについてmRNAレベルでは確認されているが、酵素誘導に関する応答性について詳細な報告はない。培養ヒト胎盤細胞を用いた代謝酵素活性測定系の構築を試みたところ、代表的な肝薬物代謝酵素の誘導剤について3日間の培地への添加によりP450 3A mRNAに対する影響が認められた。
医薬品由来物質の代謝と解毒のバランスおよび反応性代謝物と生体標的の関係について総括し、医薬品の代謝的活性化および解毒を考慮した毒性リスク評価系を確立することを目指す。具体的には、1) ヒト胎盤および肝での薬物代謝機能の探索、2) 妊娠時薬物代謝活性評価予測系の準備、および3) リスク評価に有効な肝特異的バイオマーカーの探索、等の観点から研究成果をまとめる。
予算上の少額端数を次年度に持ち越す。
消耗品として使用。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 図書 (1件) 備考 (3件)
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http://orcid.org/0000-0002-1068-4261
http://www.scopus.com/authid/detail.uri?authorId=56049170400
http://www.researcherid.com/rid/A-6081-2011