研究課題
メチオニンの代謝物であるホモシステインの血漿濃度が高い状態は、心血管疾患の危険因子の一つである。末期腎不全患者は、心血管疾患合併頻度の高い病態であり、その原因の一つとしてホモシステインの蓄積が挙げられている。本研究では、高ホモシステイン血症をホモシステインの生成と代謝の平衡が崩れている状態と捉え、末期腎不全ではどのような機序で高ホモシステイン血症を呈するか、腎機能低下に伴う高ホモシステイン血症がどのように血管系に影響するかを明らかにしようとするものである。平成26年度では、慢性腎不全のモデルとした5/6腎摘除ラットを対象に、ホモシステインの生成(脱メチル化)能、代謝(再メチル化及びイオウ転移)能を定量評価した。5/6腎摘除ラット及び偽手術ラットに、安定同位体標識メチオニン([2H7]メチオニン)及びホモシステイン([2H4]ホモシステイン)をそれぞれ個別に持続静脈内投与し、経時採血して得た血漿中の[2H7]メチオニン、[2H4]メチオニン、内因性メチオニン、[2H4]ホモシステイン及び内因性ホモシステイン濃度を測定した。それらをもとに、それぞれの標識体のenrichmentを算出し、enrichmentが一定になった(定常状態に達した)ときの値を得た。[2H7]メチオニン投与の結果から再メチル化クリアランス(CL(RM))を算出したところ、5/6腎摘除ラットのCL(RM)は偽手術ラットに比べて低値を示し、手術による腎実質の減少により再メチル化経路が障害されることが明らかになった。一方、[2H4]ホモシステイン投与の結果から得られる脱メチル化クリアランス(CL(DM))は、5/6腎摘除ラットと偽手術ラットに差異が認められなかった。当初、5/6腎摘除ラットではCL(DM)は低下するものと考えていただけに、予想外の結果であった。
3: やや遅れている
5/6腎摘除ラット作出後、血漿クレアチニン及びホモシステインが偽手術ラットに比べて有意に高値となるような飼育期間が予想以上に長期間必要であったことにより、投与実験が遅れている。また、術後の飼育期間中に、腎実質の減少により起きたメチオニンーホモシステイン代謝系の代謝フラックスを補うように、肝臓などの他臓器に存在するメチオニンーホモシステイン関連酵素の発現が誘導された可能性を評価することを目的とした、RT-PCRを用いた発現解析を行う予定であったが、プライマーの構築ができたところにとどまっている。
立案計画に従い、研究を遂行する。投与実験については、十分な数の実験ができていない偽手術ラットに対して行う。メチオニンーホモシステイン関連酵素の発現解析を行い、腎実質の減少と飼育中に発現変動を認める酵素系を特定する。このとき、メチル基転移酵素についても検討する。腎機能低下に伴う高ホモシステイン血症状態が血管系に及ぼす影響を検討する。投与実験に用いているのと同期間飼育した5/6腎摘除ラットおよび偽手術ラットの血管平滑筋を用いて、種々の薬物に対する反応性を測定する。なお、メチオニン強化食で飼育するによりホモシステイン血漿濃度の著明に上昇させることも視野にいれている。
投与実験及び分析に使用する安定同位体標識体の購入費を計上したが、平成26年度では所有物で間に合ったため購入しなかったこと、平成26年度は東京で開催された学会に参加、発表したため、旅費がかからなかったことから、次年度使用額が生じた。
安定同位体標識体購入費に充足する。また、本年度は、複数回、首都圏以外の地域での学会に参加予定なため、その旅費にあてる。
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