研究実績の概要 |
本年度は、脂溶性の異なる薬物の腸管膜透過性に及ぼす粘液層の影響について、粘液層の生理学的性質と薬物吸収との関係性について詳細な検討を行った。粘液除去剤であるdithiothreitol (DTT) 処理後におけるラット腸管管腔内の遊離粘液量をAlcian Blue染色法により定量した結果、粘液除去量はDTT処理群において用量依存的に有意に増加した。さらに、その効果は腸管上部ほど顕著であることが示され、粘液層除去剤処理により粘液層が除去されることが確認された。また、薬物の膜透過性評価はラット摘出腸管を用いたin vitro sac法により行い、粘液除去剤であるDTTを投与することで上部腸管(十二指腸部及び空腸部)における薬物の吸収性を評価した。モデル薬物として異なる物理化学的性質を有する高膜透過性薬物を選択し評価した結果、高いlogD値を有し生体内において非電荷である薬物ほど、膜透過性に対する粘液層の影響が大きいことが示された。次に、粘液層の分子実体であるmucinに着目し、ラット腸管各部位におけるmucin遺伝子発現量解析を行った。その結果、ラット消化管においてrMUC1, 2, 3A, 4, 5AC, 13の発現が認められ、膜透過性に与える粘液層の影響が顕著であった腸管上部において、rMUC1及びrMUC5ACの遺伝子発現量が高いことが示された。これらのことから上部消化管での発現が高く、Alcian Blue染色の反応性が高いとされるrMUC5ACが薬物の腸管膜透過性に影響を与える粘液成分である可能性が示唆された。以上の結果は、薬物の消化管膜透過機構において粘液層を中心とした腸管表面構造をより詳細に理解し、ヒト腸管における薬物吸収の高精度予測を可能にするための基盤情報を提供し、医薬品開発における腸管吸収の適正な評価法を確立する上での有用な知見となるものと考えられた。
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