研究課題
単一の代謝経路のみによって体内から消失する薬物は、その代謝経路が併用薬により遮断された場合に血中濃度が大きく上昇するのに対し、複数の代謝経路を持つ薬物では、体内動態変動の程度は影響を受ける経路が消失全体に占める割合に依存する。すなわち、薬物相互作用の定量的予測において、薬物代謝における各代謝酵素の寄与率を正確に評価することが重要となる。一方、ヒト肝ミクロソームを用いたin vitro薬物代謝試験において、緩衝液濃度に依存して種々のシトクロムP450(CYP)分子種の代謝活性が変動することが報告されている。そこで、本研究では、CYP2C8およびCYP3A4で代謝される薬物における各々の寄与率を測定することを想定し、両代謝酵素の活性に及ぼすリン酸緩衝液およびトリス塩酸緩衝液濃度の影響を検討した。種々の緩衝液条件下でヒト肝ミクロソームにおけるpaclitaxel 6α位水酸化反応(CYP2C8活性)およびtriazolam α位、4位水酸化反応(CYP3A4活性)を測定し、それぞれMichaelis-Menten式に当てはめて解析した結果、Michaelis定数(Km)はいずれもリン酸緩衝液と比較してトリス塩酸緩衝液の方が高く、緩衝液の種類により見かけの親和性が異なることが示唆された。また、両代謝活性ともに緩衝液の濃度によっても変動し、その変動パターンは緩衝液の種類により異なっていた。CYP2C8活性とCYP3A4活性とでは異なる変動パターンが認められたことから、薬物代謝における両酵素の寄与率を評価する際に、緩衝液条件によって異なる結果が得られる可能性が明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
生理学的薬物速度論モデルを用いた薬物動態解析では、適切なモデルおよびパラメータを使用することが必須である。複数の代謝酵素が関与する薬物相互作用は、それらの寄与率によって程度が異なることから、定量的予測に当たって各代謝酵素の寄与率を正確に評価することが重要となる。本年度は、in vitroでの寄与率の測定に影響を及ぼす緩衝液条件について検討を行い、得られた成果について国内外の学会で発表するとともに、投稿論文の作成に着手することができた。
肝取り込みおよび肝代謝過程が関与する薬物相互作用を生理学的薬物速度論モデルに基づき定量的に予測する方法論について、実際の事例を用いて引き続き検討する。特に、複数の薬物代謝酵素が関与するケースについて、ヒト肝ミクロソームを用いたin vitro代謝試験によりそれらの寄与率を算出する際に、緩衝液条件によって異なる結果が得られることを確認する。
測定機器の不調等により、必ずしも計画通りに実験を進められない時期があったため。
本年度と同様に、主に試薬等の消耗品の購入費用として使用する予定である。
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くすりと糖尿病
巻: 3 ページ: 24-27
薬剤学
巻: 74 ページ: 312-315