全ゲノムシークエンス法(Whole-genome Sequencing)を用いて、単一塩基変異に加え、遺伝子欠失や増幅、逆位、転座などのあらゆるゲノム変化を俯瞰することにより、バクテリアゲノムの潜在的な病原因子を理解する研究手法が試みられつつある。全ゲノムの解読は困難であったが、シークエンス技術の急速な進歩により、2日間で80億塩基の解読が現在可能である。このゲノム解読技術を活用し、クラリスロマイシン耐性ヘリコバクターピロリ菌ゲノムを明らかにし、薬剤耐性を担う潜在的なゲノム変化を解明する。ゲノムエビデンスにもとづき、全員除菌時代でのより適正な治療法を開発し、海外を含めた医療現場で活用する。
ヘリコバクターピロリ菌が薬剤耐性を獲得するメカニズム、なかでもクラリスロマイシン(CAM)への耐性機構は、過去15年以上にわたり国内外において研究の進展は認めていない。CAM耐性は、ピロリ菌23S rRNA遺伝子の単一塩基変異により生じるとされているが、この変異のみでCAM耐性機構をすべて説明出来ない。全ゲノムシークエンス法により、ピロリ菌ゲノムに隠されているあらゆる遺伝子変化を検出し、潜在的な薬剤耐性機構の解明が可能である。
申請者は、クラリスロマイシン耐性ピロリ菌12株(23S rRNA遺伝子変異株)の全ゲノムシークエンスを実施し、既知の23S rRNA遺伝子変異に加え、菌体内外への多薬剤輸送を担う遺伝子群に特異的なアミノ酸置換が存在することを確認し、薬剤耐性をきたす潜在的なゲノム変化を見出し、成果を欧米学術誌へ発表した。
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