研究課題/領域番号 |
26460214
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
西尾 太一 山形大学, 理工学研究科, その他 (60625432)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 医療薬剤学 / 薬剤徐放製品 / 非晶性セルロース |
研究実績の概要 |
今年度は、平成27年度以降の初年度にあたり、研究計画記載の通り、「粘着樹脂ブレンド系で放出性の理論構築と3次元モルフォロジーの新規製品創製」の中で「薬剤の拡散・放出の理論構築」について集中的に明らかにしてきた。現実の課題として発布剤製品の中期使用には、外装袋内での剥離紙を通しての薬剤(サルチル酸メチルやサルチル酸グライコール)の蒸散問題があり、中期的保存に課題がある。基礎的理論であるFickの法則から、まず発布剤互着防止剥離紙に用いられているポリエチレン(以下PE)の厚みや結晶化度の剥離紙表面に拡散する量の影響を検討した。モデル的にポリビニルアルコール水溶液にサルチル酸メチルとサルチル酸グライコールを各6%濃度で含有した水溶液をPEフィルムに塗布した系を用い、反塗布面の拡散量を表面赤外分光光度測定した結果、PEの厚みが厚くなるほど、またPEの結晶化度が高くなるほど剥離紙表面への拡散量が少なくなる事をみいだした。特にPEの厚み50μmの系で結晶化度が50%以下だと10時間位で大量に表面に拡散してしまい、150時間後では1/7位まで拡散量が低下するが、60%以上になると初期拡散量と150時間経過の拡散量が少ない量で一定なことが判明した。この150時間まで少量で一定の拡散量となる挙動は、0次拡散的挙動であることを見いだした。結晶化度と拡散性の相関性を検討することで、本研究における長期一定拡散性の基礎的知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究開発の目標を達成するためには、①吸収量の評価方法を探索・確立することと非晶化セルロースの優位性を評価すること、および、②吸収量を制御したものが少量で長期間一定に拡散するシステムの因子解析が最も重要な点であった。①については、26年度に検討した。西岡らの開発した臼式粉砕装置でセルロースの結晶化度を制御したセルロースを用い、薬剤吸収性には非晶化度の高いセルロースが有効であり、拡散性の評価では非晶化度が高いと拡散量が低い事が判明した。その結果、吸収量と拡散量制御には、セルロースの結晶化度の適当な領域(30-50%)がある事を見いだした。②について、27年度に検討した。まず樹脂ブレンド系におけるモルフォロジーと物性安定性を検討し、非晶化セルロース/ポリオレフィン樹脂複合体にはセルロースの周りに相容化剤が存在することが重要であり、その相容化剤の設計概念を確立した。このセルロース表面周辺に存在する相容化剤は、拡散の「道」になる事も想定された。また、外装袋内蒸散問題に対しては、拡散の理論をベースに剥離紙の目止め材としてラミネートしたPEの厚みと結晶化度を変更し、サルチル酸メチルとサルチル酸グライコールのPE表面への拡散性の因子解析をモデル的に検討した。その結果、PEの厚みが厚くなるほど、またPEの結晶化度が高くなるほど剥離紙表面への拡散量が少なくなる事をみいだした。この検討の中で、目標とする0次拡散的挙動を示す系を見いだし、結晶化度と拡散性の相関性を検討することで、本研究における長期一定拡散性の基礎的知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
吸収量と拡散量の評価方法と因子解析をほぼ確立できたことから、最終年度(28年度)は、サルチル酸メチル、サルチル酸グライコール等の薬効機能成分化合物を初期から中期にわたり均一に表面に拡散するという0次拡散発布剤系の3次元的(縦・横・深さ)モルフォロジー設計の拡散制御製品を開発する。具体的には、発布剤に必要な粘着性付与のためにエチレン系共重合体(EVA等)を用いる。その共重合体に薬剤吸収・放出性のバランスを持つ結晶性を制御したセルロースをブレンドする。このブレンドしたセルロースは、EVA中に島構造を示す。この島構造を持つセルロースが薬剤吸収した「池」の役目をもち薬剤が「池」の界面から相容化剤的役目も果たすEVAにじわじわと拡散していく機構を想定している。使用するセルロースは、結晶化度を制御したものを用い、早期の拡散に有効な結晶性セルロースと中期の拡散に有効な非晶性セルロースの併用も視野に入れ検討する。エチレン系共重合体は、その共重合含有量で結晶・非晶混在構造と多層化で3次元的に制御し、拡散・放出しやすい「道」を検討し、両者の検討から研究目的の達成を目指す。また、外装袋内での蒸散問題には、剥離紙のPEは結晶性制御で剥離紙からの薬剤の拡散・蒸散の制御検討もおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、評価法確立・試料作成法・指標化など本研究を遂行する上での重要な検討を重点的に集中してきた。そのため設備備品費を多めに計上した。さらに旅費、謝金などの情報入手等に関わる経費も計上した。しかし、初年度は、評価法・試料作成法に多くの時間をさいたため当初予定していたよりも費用が発生しなかった。また、平成26年度の検討で評価法確立・試料作成法がほぼ確立したため、平成27年度はより多くの消耗品費、学会発表等に伴う経費が必要と予定した。研究打ち合わせに関する旅費と情報入手のための学会参加に関する旅費も発生した。ただ、消耗品ではセルロース、機能性薬効剤、樹脂などの使用量が増加する予定であったが、小型評価法や自作評価装置のため、全体では当初予定したよりも費用発生が少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の検討で評価法や理論解析などがおおむね順調に進展したため、平成28年度はより多くの消耗品費、学会発表に伴う経費が必要となる予定である。特に研究打ち合わせに関する旅費や研究発表の関する旅費も多く計上する予定である。さらに消耗品では中型実験も視野にいれた検討も予定しており、その経費は増加する予定である。
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