最終年度(平成30年度)は、研究期間全体を通じて収集したデータを用いて新薬アクセスと健康アウトカムの関連に係る以下の分析を取りまとめ、結果を論文として公表した。 市販後の安全性アウトカムの代表として薬剤による副作用死の報告数に注目した分析を実施した。近年上市された新薬の副作用死の報告数が、グローバル企業が選択する開発戦略上の地理的・評価データ構築的な経路(pathway)とどのように関係するかを分析した結果、日本(というローカル地域)での日本人向けの用量設定試験や第三相検証試験を実施していない新薬で日本での市販後の副作用死が多い傾向が見出された。 また、国民レベルでの医薬品安全性アウトカムを評価する上で重要な市販後副作用報告システムのあり方についても研究を進めた。今後重要性を増すと考えられる消費者(患者)からの副作用報告について、先進的な報告システムを有する米国での状況を分析した。その結果、急増している消費者からの副作用報告は、医療従事者からの報告に比して、併用薬の記載数や主観的な症状の記載が多いことなどの特徴を有することが明らかになった。 さらに、臨床試験での薬効評価の結果が、新薬アクセスの質・量と直接に関係する試験実施環境や企業の開発戦略等とどのように関係するかを前年度に引き続き分析した。糖尿病領域の薬剤を分析した結果、試験デザイン(試験期間、併用療法等)、日本人被験者の比率などが観察された効果量(有効性)と関係しており、新薬によりもたらされる健康アウトカムがグローバル新薬開発戦略の影響下にあることが示された。 以上のとおり最終年度において、研究期間に蓄積した新薬開発・健康アウトカムに関するデータを網羅的に活用し、「グローバル新薬開発時代における日本(ローカル)の新薬アクセスと健康アウトカムの種々のトレードオフを探索する」という所期の研究目的を達成した。
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