生活習慣病に伴う糸球体バリア機能の低下により血清アルブミンが尿細管管腔中に漏出することによって、近位尿細管上皮細胞は様々な影響を受けることが知られている。我々はこれまでに、ヒト腎近位尿細管上皮細胞株HK-2をアルブミンで処理することによって低酸素誘導因子HIF-1が活性化することに加え、そのHIF-1活性化は脂肪酸を除去したアルブミン処理ではほとんど惹起されないことを見出した。最終年度の研究では、アルブミン処理によるHIF-1活性化に関与している脂肪酸を同定することを中心に、HIF-1活性化に伴い上昇する促進拡散型グルコーストランスポーター(GLUT)輸送活性を指標に検討を行った。 HK-2細胞は常法に従い培養した。脂肪酸処理は脂肪酸が除去されたアルブミン存在下、各種脂肪酸を種々の濃度で共存させた48時間処理した。GLUT輸送活性はフロレチン感受性のD-[3H]glucose取り込み量で評価した。本解析で検討した脂肪酸は、ヒト血清アルブミンに結合する脂肪酸のうち、比較的に結合量が多いパルミチン酸(C16:0)、オレイン酸(C18:1ω9)、アラキドン酸(C20:4ω6)を選択した。パルミチン酸あるいはオレイン酸で処理した結果、有意なGLUT輸送活性の増加は観察されなかった。一方、アラキドン酸の場合には、処理濃度依存的にGLUT輸送活性は上昇することが認められた。以上より、アルブミン処理によって惹起するHIF-1活性化には、少なくとも一部、アルブミンに結合しているアラキドン酸が関与している可能性が示唆された。 また、アドリアマシン投与によって誘発したタンパク尿発症マウスの腎におけるHIF-1活性化についても検討を行い、培養細胞での結果との相関解析を進めた。本解析結果は、本課題の最終年度以降も例数を重ねて検証し、公表する予定である。
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