研究課題
ニーマンピック病C型(NPC)は、細胞内脂質代謝・転送系の破綻を呈する稀少難病である。申請者らは、世界に先駆けNPC患児に2-hydroxypropyl-β-cyclodextrin(HPBCD)の脳室内投与療法を施行し、静脈内投与を上回る有効性を確認した。一方で、HPBCDの脳室内への至適投与条件および安全性に関する情報は極めて少ない。本研究では、NPC治療上の臨床課題を基礎研究に立ち返り解決するreverse translational researchとして、1) 病態モデル動物・細胞を用いた脳室内HPBCD投与法の有効性・安全性評価、2)HPBCDによる中枢神経傷害抑制機序の解明、3)脳室内投与に最適なシクロデキストリン誘導体の探索を行うことで、現在継続中のNPC治療の科学的根拠を補強するとともに、臨床におけるHPBCD至適投与プロトコルを確立し、治療の最適化を図ることを目的にしている。昨年度までの知見に基づき、本年度はHPBCDをはじめとするBCD誘導体の有効性・安全性について検討し、HPBCDの置換度は2.8-7.4の範囲では、コレステロール可溶化能に若干の違いはあるものの有効性(細胞内コレステロール転送・代謝障害)および安全性(細胞膜傷害性)に顕著な影響を与えないことを明らかにした。また、BCD誘導体である2-hydroxyethyl-β-cyclodextrin(HEBCD) および 2-hydroxybutyl-β-cyclodextrin (HBBCD)は、有効性の面でHBBCD=HPBCD≫HEBCD、安全性の面でHBBCD<<HPBCD=HEBCDであったことから、NPC治療薬として有効性・安全性のバランスからHPBCDが優れていることが示された。また、LC/MS/MSを用いたHPBCDの微量定量測定系を構築し、HPBCDが細胞内に取り込まれ効果を発揮することが示唆された。また、HPBCD脳室内・髄腔内投与が施行された日本人NPC病患者の脳脊髄液中濃度推移を調べ、HPBCDのみかけの分布容積は患者のCSF推定量よりも大きく見積もられたが、髄腔内投与ではCSF中HPBCD濃度の急激な減少は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
本年度はHPBCDの治療効果や安全性におよぼす置換度の影響を評価したこと、HPBCD以外の他のBCD誘導体の有効性・安全性について評価し、治療薬として相応しいBCD誘導体の化学的・物理的特性を明らかにした。さらに、HPBCDの高感度測定系を構築し、HPBCD細胞内動態特性を調べる条件を見出したこと、HPBCD脳室内投与療法施行中の患者CSF中濃度推移をしらべることが出来たことから、概ね順調に進展していると考える。
これまでに構築したHPBCDの高感度測定系を利用し、各種オルガネラ移行などのHPBCD細胞内動態特性を調べる作用機序解明に向けた検討を実施する。また、これまでに明らかにしたHPBCD投与時期の影響について精査を行う。また、HPBCD脳室内投与療法施行中患者でのHPBCD薬物動態を継続して調査する。
研究は概ねに順調に進展しているが、一部、HPBCD濃度を測定していないサンプルが生じたためである。その分、最終年度に測定を行う予定である。
本年度測定出来なかったサンプルについて、測定を行う。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Biological and Pharmaceutical Bulletin
巻: 38 ページ: 844-851
10.1248/bpb.b14-00726.