研究課題/領域番号 |
26460223
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
臼井 茂之 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (40176665)
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研究分担者 |
大山 雅義 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (30381718)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アクアポリン / 細胞膜移行 / 細胞質移行 / プロテインキナーゼC / Akt / アクチン / 微小管 / 緑色蛍光タンパク質 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、AQP3の細胞膜移行を促進する天然由来物質の探索とAQP3の細胞膜移行機序の解明を主として研究を行った。なお、AQP3膜移行の測定は、HKA-1細胞中でGFP-AQP3融合タンパク質を発現させ、GFPに由来する緑色蛍光を共焦点レーザー顕微鏡にて観察する手法を用いた。 平成27年度の実施状況報告書に記載したように、生薬シンイの主成分o‐オイゲノールが、PKCの活性化を介してAQP3の細胞膜移行を促進することを報告した。o‐オイゲノールの化学構造に着目すると、分子内に2残基の水酸基が存在することから、本化合物は一種のポリフェノールと考えられた。従って、本年度は、ポリフェノールの1種で、様々な生物活性が報告されているレスベラトロールを用いて、AQP3の細胞内移行に及ぼす影響を検討した。HKA-1細胞にレスベラトロールを処理した結果、AQP3の細胞質移行が促進することを見出した。また、この細胞質移行は、PMA存在下の培地にレスベラトロールを追加処理しても確認された。驚くべきことに、o‐オイゲノールとレスベラトロールは同じポロフェノール類でありながら、AQP3の細胞内移行に対して正反対の作用を示した。 AQP2のPKAの活性化を介した細胞膜移行には、AQP2のリン酸化が必須であることが報告されている。AQP3の細胞膜移行では、PKCの活性化を介することが認められているが、AQP3自体がリン酸化される必要があるかどうかは不明であった。そこで、AQP3の推定リン酸化部位であるThr52、Thr107、Thr237およびSer275のアミノ酸残基を部位特異的変異法によりAlaに変えた変異AQP3を作製し、細胞膜移行を検討した。その結果、Thr237およびSer275をAlaに変異したAQP3は、ホルボールアセテートによりPKCを活性化しても、細胞膜移行は観察されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、o‐オイゲノールによるAQP3の細胞膜移行機序解明を行ったので、本年度は、ポリフェノールの1種であるレスベラトロールのAQP3細胞内移行に及ぼす影響を検討した。その結果、レスベラトロールが、AQP3の細胞質移行を促進することを見出した。更に、そのレスベラトロールの作用機序を検討する過程で、PI3K阻害剤およびAkt阻害剤の前処理により細胞質移行が部分的に抑制されたことから、PI3K/Akt経路の活性化が一部関与していることが示唆された。レスベラトロールにはPI3K/Akt経路の活性化のほか、AMPK、MAPK、SIRTなど、さまざまなシグナル伝達経路を活性化あるいは抑制することで生理作用を示すと考えられている。そのため、GFP-AQP3の細胞質移行にはPI3K/Akt経路の活性化のほかに、これらのシグナルまたはその他の要因の関与が考えられ、今後の課題として取り組む計画である。 AQP2の細胞膜移行は、アデニル酸シクラーゼの活性化によってPKAが活性化し、その後アクチン重合を経て生じること、更に、AQP2のリン酸化が必須であることが報告されている。AQP3の細胞膜移行では、PKCの活性化を経たアクチン重合が関与する点で共通であるが、AQP3のリン酸化の必要性は不明であった。そこで、部位特異的変異法を用いて、AQP3の推定リン酸化部位のThrまたはSerをAlaに変異した変異体を作成し、PKCの活性化によるAQP3の細胞膜移行を検討した。その結果、AQP3のThr237およびSer275のリン酸化が、膜移行に必須であることを認めた。AQP2とAQP3は、リン酸化酵素がそれぞれPKAとPKCで異なるが、膜移行には共にAQPのリン酸化が必須であることが示唆された。 以上の結果は、当初の研究計画にほぼ沿って進展しているが、細胞内移行の分子機序の更なる解明が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度では、AQP3の細胞内移行機序の解明及びAQP3の移行を促進または抑制する天然由来物質の探索を引き続いて行う予定である。 AQP3の移行機序の解明 近年、AQPの細胞内移行と仮足突起の伸縮を伴う細胞運動との間に関連があることが報告されている。細胞運動にはアクチンや微小管の重合・脱重合が関わっている。アクチンの重合機序の1つには、PKCの活性化を経由し、その下流のROCKが活性化して生じることが知られている。PKCの活性化はAQP3の細胞膜移行を惹起するが、細胞運動とAQP3との関わりは明らかでない。がん細胞の転移・浸潤には、細胞運動が必ず伴う。もし、AQP3ががん細胞の運動に関わるのであれば、AQP3は抗がん剤のターゲット分子になり得るかもしれない。そこで、本年度は、AQP3の細胞内移行とアクチンや微小管の重合・脱重合との関わりを解明するとともに、AQP3が細胞運動に必須かどうかを明らかにする予定である。現在、前立腺がん細胞由来のPC-3細胞(運動性が高い)とLNCaP細胞(運動性が低い)を用いて、AQP3や他のAQPの含有量の差異について検討している。更に、各種AQPの強制発現をこれらの細胞内で行い、運動性の違いを検討する予定である。 AQP3の移行を促進または抑制する天然由来物質の探索 シンイ中のo‐オイゲノールとレスベラトロールは、共にポリフェノール類であるが、AQP3に対してそれぞれ細胞膜移行と細胞質移行を促進し、正反対の作用を示した。この細胞内移行の作用機序として、PI3K/AktとPKCの活性化が重要であることが判明したので、本年度は、これらキナーゼの活性化を引き起こす天然物由来成分(特に、生薬成分)の探索を行い、起源生薬の有する水分貯留や利尿作用とAQPとの関連を調べる予定である。
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