研究課題/領域番号 |
26460232
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
浅野 哲 国際医療福祉大学, 薬学部, 教授 (70568063)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 起壊死性抗がん剤 / 皮膚傷害 / 罨法 / 酸化ストレス / アポトーシス / ヒートショックプロテイン / ステロイド療法 / 微小管機能阻害薬 |
研究実績の概要 |
1.起壊死性抗がん剤による細胞傷害性ならびに細胞保護作用のメカニズムの検証:①曝露初期に起こる急性の細胞傷害とその後に起こる遅延型細胞毒性の2つの細胞障害パターンが認められ,遅延型細胞毒性は,アポトーシスによる細胞毒性が関与している可能性が考えられた。②微小管機能阻害薬を培養細胞に曝露した場合,脂質過酸化により生じるマロンジアルデヒドの細胞内濃度が顕著に増加したことより,起壊死性抗がん剤が血管外漏出した際の急性の細胞傷害には,脂質過酸化による酸化的ストレスの関与が示唆された。③ミトコンドリア毒性は認められず,タキサン系抗がん剤に含まれる添加剤(ヒマシ油,界面活性剤,等)が抗がん剤曝露初期(曝露後8時間まで)の細胞毒性に大きく関与している。さらに,主薬の細胞毒性発現には酸化ストレス以外の毒性メカニズムが存在する可能性が示唆された。 2.起壊死性抗がん剤による細胞傷害性に対する罨法およびステロイド療法の妥当性の影響:①タキサン系ならびにビンカアルカロイド(VNR)による細胞傷害性は,組織傷害が激しい場合には冷罨法を,傷害が軽度の場合には冷罨法に加えて温罨法も有効なことが示唆された。②VNRの血管外漏出による皮膚傷害に対する温罨法処置においては,熱感受性タンパク質(HSP),HSP70及びHSP90αが誘導され細胞保護作用に大きく関与することが示唆された。③微小管機能阻害薬の血管外漏出がIL-6の放出を促し,ヒトの皮膚組織における初期の炎症反応の進行に関与する可能性が示唆された。④ステロイド剤そのものにも臨床用量の濃度では細胞傷害性があり,薬剤の投与量に注意が必要である。細胞傷害性を示さず,IL-6を抑制するステロイド剤の濃度は,局所投与薬液濃度の100~105倍希釈であり,臨床における薬液調整の目安となることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
起壊死性抗がん剤であるタキサン系およびビンカアルカロイド系の細胞傷害メカニズムを明らかにし,その分子メカニズムの一部を明らかにすることができた。また,臨床での予防・治療効果につながる皮膚細胞傷害保護作用を有する分子(熱感受性タンパク質:ヒートショックプロテイン)の可能性を見出すとともに,現在,経験則をもとに臨床で行われている治療方法の科学的な検証を進行させることができた。特に,罨法における細胞保護タンパク質の誘導状況の確認や,副腎皮質ホルモンによる炎症初期サイトカインの動態とその至適濃度の解明は,現行のステロイドによる抗炎症療法の適切な方法の確立につながる結果が得られた。 これまでの研究内容については,日本薬学会第136年会,国際医療福祉大学学術大会で発表するとともに,学術論文を作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
微小管機能阻害薬であるビノレルビン,パクリタキセル及びドセタキセルの医薬品製剤が血管外漏出した際に引き起こす皮膚傷害に対する処置法として現在用いられている罨法(温罨法及び冷罨法)ならびにステロイド剤の皮下投与による傷害抑制効果について,正常ヒト皮膚線維芽細胞(SF-TY細胞)を用いて解明する。 ① 微小管機能阻害薬による細胞周期の変動:微小管機能阻害薬の薬理効果(主作用)である微小管重合阻害または促進に伴う細胞周期の変動(G2/M期への細胞集積)の,血管外漏出による皮膚傷害への関与についてフローサイトメーターを用いて検討する。②微小管機能阻害薬の薬理効果である微小管重合阻害または促進に伴って引き起こされるアポトーシスが血管外漏出による皮膚傷害への関与するかについて,DNA断片化とDNAヒストグラムの結果により確認する。③ 微小管機能阻害薬を37℃,41℃(温罨法)及び23℃(冷罨法を想定)にて一定時間曝露した細胞を回収し,各細胞の細胞周期をフローサイトメーターにて測定することにより,微小管機能阻害薬が引き起こす細胞周期の変動(G2/M期への細胞集積)に対して,温罨法及び冷罨法が抑制効果を示すのか検討する。 ④ DNA断片化とDNAヒストグラムの結果より,微小管機能阻害薬が引き起こすアポトーシスに対して,温罨法及び冷罨法が抑制効果を示すのか検討する。 ⑤上記罨法における温度条件での抗がん剤の酸化ストレスに関連した組織傷害に関与する分子と炎症に関与する分子について,ヒト培養細胞を用いて,それらの経時的な変化を,形態学的手法と免疫組織化学的手法により詳細に評価検討し,傷害の特性やメカニズムを解明する。また,タキサン系化合物及びビンカアルカロイドの作用点であるチューブリン等の細胞骨格タンパク質への影響と細胞傷害性との関連を検討し,傷害メカニズムの詳細を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞傷害性メカニズム検討に関し,得られたデートからの次の実験研究立案に時間を要し,試薬および解析用のハードウエアの発注が遅れたため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に予定していた実験に用いる試薬の購入を,次年度に使用する予定である。
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