研究実績の概要 |
本年度に、乳がん細胞MCF-7、MDA-MB-231、および健常人由来末梢血単核細胞(PBMNCs)に対する亜ヒ酸ナトリウム(AsIII)およびテトランドリン(Tetra)の単独、および併用効果を以下のように検討した。①細胞毒性の観点からの検討:薬剤の単独および併用処理に対するPBMNCsの感受性が乳がん細胞より低い傾向が見られた。薬剤処理を受けたMCF-7細胞において、DNA断片化が観察されなかったが、PI/Hoechst33342陽性細胞が観察されたことから、ネクロシース細胞死が誘導されたことが示唆された。単独処理を受けた乳がん細胞におけるp38 MAPKリン酸化の促進、Aktリン酸化の抑制は、これらの経路が細胞死誘導に関与する可能性を示唆した。MCF-7細胞では、薬剤併用によるERαタンパク質発現量の減少が見受けられたが、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT1,DNMT3a)タンパク質の発現が顕著な影響を受けていなかったことから、遺伝子メチル化の関与の可能性が低いと示唆された。②細胞分化の観点からの検討:Western blot法により、乳腺上皮細胞分化マーカーであるICAM-1の発現が検出できなかったことから、細胞の分化誘導の可能性が低いと考えられるが、FACS法によりさらに検討する予定である。③細胞の浸潤/遊走の観点からの検討:real-time PCR法により、浸潤/遊走に関係するMMP-2, -7, -9, -14、およびそれらの阻害因子であるTIMP-1, -2, -3のmRNAの発現を検討したところ、MMP-9の発現が薬剤の処理により顕著に減少したことが観察され、ゼラチンザイモグラフィー法を用いてさらに検討する予定である。また、トランスウェルアッセイおよびマトリジェル浸潤アッセイの実験系を確立した。また、動物を用いたin vivo実験条件を検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究目的に沿う形で実験研究が基本的に順調に進められている。平成26年度の研究計画に記載された実験研究内容(細胞毒性、細胞分化誘導、細胞の浸潤)をほぼ実施していたか、あるいは今後実施するための実験条件設定はほぼ完了した。薬剤処理後の健常人由来PBMNCs中のCD4+CD25+Foxp3+制御性T細胞(Treg細胞)のFACSによる解析条件の設定、細胞死誘導・細胞周期の制御に関連する遺伝子(bcl-2, bax, survivin, p53)のreal-time PCR解析条件の設定などが既に完了し、平成27年度中に詳しく解析する予定。特に当教室は平成27年度にBio-Rad社のreal-time PCR機械を購入したことにより、注目されている遺伝子mRNA発現の検討がよりスームズに進められると思われる。
|