研究課題/領域番号 |
26460244
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
中村 一基 武庫川女子大学, 薬学部, 教授 (20299093)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | P2Y12受容体拮抗薬 / 血小板 / がん転移 / マウスメラノーマ細胞 / Clopidogrel / 遊走能 / MMP-2 |
研究実績の概要 |
がん細胞は血行性転移する際に、ADP を分泌して血小板凝集を促進することにより、がん細胞・血小板の凝集塊を形成し、転移先臓器内血管にて血管外脱出の足場とする。また、ADP 分泌能の高いヒトがん細胞は、高転移能を有することも報告されているために、 ADP の P2Y12 受容体拮抗薬は抗転移薬として有望である。そこで、がんの治療を困難にしているがん転移に及ぼすP2Y12受容体拮抗薬 Clopidogrel と Ticlopidine の影響を in vitro にて検討した。 In vitro において B16-BL6 細胞に Clopidogrel 及び Ticlopidine を処置し、細胞の増殖能及び遊走能に対する影響を検討した。次に、細胞の増殖能に影響を与えない Ticlopidine 濃度を処置することにより、がん細胞転移能の指標となる Matrix metallo- proteinase-2 (MMP-2) 発現量がどのように変化するかを検討した。 In vitro で Clopidogrel 及び Ticlopidine それぞれ 100 μM を 24~72 時間処置すると B16-BL6 細胞の増殖能は有意に低下した。また、増殖能に影響を及ぼさない濃度の Clopidogrel 及び Ticlopidine 処置により、B16-BL6 細胞の遊走能は濃度依存的に有意に低下した。さらに、増殖能に影響を及ぼさない濃度の Ticlopidine 処置を行うと、B16-BL6 細胞内の MMP-2 発現量は有意に低下した。 以上の結果より、ADP の P2Y12 受容体拮抗薬はがん転移抑制薬となりうる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
In vivo がん転移モデル実験において、Clopidogrel 25 mg/kg 投与群ではコントロール群と比較して、肺転移結節数が有意に減少したことから、Ticlopidine よりも臨床において安全性の高い ADP の P2Y12 受容体拮抗薬である Clopidogrel の動物個体レベルでの抗転移作用が確認された意義は大きい。 また、In vitro で Clopidogrel 及び Ticlopidine 100 μM を 24~72 時間処置すると B16-BL6 細胞の増殖能は有意に低下した。また、増殖能に影響を及ぼさない濃度の Clopidogrel 及び Ticlopidine 処置により、B16-BL6 細胞の遊走能は濃度依存的に有意に低下したことから、Clopidogrel は動物体内での血小板凝集抑制作用による抗転移作用の他に、がん細胞に対する直接的な抗転移作用も持ち合わせることが示唆された。これも本研究課題の中では大変重要な知見であると評価できる。 さらに、増殖能に影響を及ぼさない濃度の Ticlopidine 処置により、B16-BL6 細胞内の MMP-2 発現量が有意に低下したことから、P2Y12 受容体拮抗薬による抗転移作用の分子生物学的機序の一部を解明することもできた。
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今後の研究の推進方策 |
既に in vivo がん転移モデル実験において、P2Y12 受容体拮抗薬の抗転移作用を実証済みであるが、もう一つ別の in vivo がん転移モデルを用いて、P2Y12 受容体拮抗薬の抗転移作用を確認したいと予定している。 さらに、in vitro においても P2Y12 受容体拮抗薬が、高転移性マウスメラノーマ細胞の遊走能を濃度依存的に有意に抑制することが明らかとなったことから、高転移性がん細胞に対する P2Y12 受容体拮抗薬の浸潤能抑制作用を検討するとともに、その分子生物学的メカニズムのさらなる解明を試みることとする。
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