研究実績の概要 |
妊娠中のウイルス感染は、自閉症を含む発達障害を引き起こすことが報告されているが、その発症メカニズムはほとんど解っていない。本研究では、「妊娠中のウイルス感染による自閉症の発症には、①臨界期が存在するのか、②免疫活性化の閾値が存在するのか」、という問いに答えを見出すことを目的とする。自閉症の判断基準として、実際の自閉症のヒトの脳で見られる異常であるセロトニン神経系の機能低下を指標とし、妊娠中のウイルス感染による自閉症の発症モデルとしてpoly I:C を投与したラットを用いて研究を行う。 平成26年度の研究では、妊娠期及び新生児期のラットにpoly I:Cを投与し、オスの仔ラットが生後8週齢になった時点で、海馬のセロトニン含量をHPLCで測定することで、妊娠中のウイルス感染により引き起こされる自閉症には臨界期が存在することを明らかにした。 平成27年度の研究では、産まれてきた仔の脳のセロトニン神経系の異常を引き起こす妊娠中のウイルス感染には、サイトカインの発現量の閾値が存在するのか調べるために、まずは、サイトカイン遺伝子の発現量を投与量依存的に増加させるpoly I:Cの投与量の検討を行った。その結果、0.1, 1, 10 mg/kgのpoly I:Cを投与した際に、投与4時間後の肝臓における相対的なサイトカイン遺伝子の発現量は、コントロール群の発現を1とすると、IL-1βでそれぞれ1.4, 2.5, 11.2倍、TNFαでそれぞれ6.1, 10.7, 53.2倍と投与量依存的な増加が見られた。次に、0.1, 1, 10 mg/kgのpoly I:Cを妊娠10日目のラットに投与し、産まれてきた仔が生後50日になった時点で、小脳を取り出し、calbindin遺伝子の相対的な発現量をリアルタイムPCRで調べた。その結果、10 mg/kgのpoly I:C投与群においてのみ発現量の増加(2.6倍)が見られた。
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