研究実績の概要 |
鳥類やほ乳類では,胸部で形成される肋骨が,他の部域では形成されない.この特異性は,肋骨原基である体節の発生能の違いとともに,その周囲組織による抑制/助長作用もある.この両者が相まって安定した形態形成がなされるのであろう. ニワトリ胚で胸部体節を腰部に移植すると,肋骨は形成されるものの正常のものと比較して短い.このキメラ胚では,胸部体節細胞は腰部側板中胚葉に進入できないことから,我々は,体節細胞の移動が側板中胚葉によって抑制された結果,形成される肋骨が短くなると考えた.本研究では,細胞間相互作用を再現するin vitro 系を確立し,体節細胞移動抑制の機構を細胞運動のレベル,さらには分子レベルで解明する. 1.肋骨を形成する胸部体節細胞と腰部側板中胚葉細胞間の相互作用をin vitroで再現する:サイトグラフ(大日本印刷)を用いて体節と側板中胚葉の共培養実験を行い,細胞が一次元の基質上で出会うようにした.胸部体節細胞が胸部側板細胞と出会うとそのまま前進を続けようとし糸状突起を基質の隙間へ伸ばすが,側板細胞を押しのけることができないので細胞の移動は停止した.一方,腰部側板細胞とであうと,体節細胞はそれまでの進行方向と反対方向に移動した. 2.肋骨形成能を持った胸部体節細胞の移動を抑制する因子の探索:今年度はephrin とその受容体である Eph遺伝子の発現パターンを,ニワトリ胚の各発生段階について,ホールマウントin situハイブリダイゼーションにより調べた.ephrinとEphは,ニューロンの軸索ガイダンスや体節形成,血管形成などで働く反発性の因子であり,側板中胚葉と体節との間の相互作用に関与していることを期待した.4~7日胚について,EPHA1, A3, A4, A5, A6, A7, B1, B2, B3, B6, ephrinA2, A5, A6, B1, B2の発現パターンを調べたが,部域特異的な発現は見られなかった.
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