研究課題
本研究課題においては、性ホルモンによる脳の形態形成と性分化の制御機構を明らかにすることを目指している。本年までに新たに、ミクログリアが性ホルモンによりその活性が調節され、脳の形態形成に関与している可能性を見出した。ミクログリアは脳を構成する細胞の10%程度を占めると考えられている細胞で、食作用等を介して脳の免疫応答を支配していると考えられる。また、それ以外にシグナル伝達やシナプス可塑性を制御することで、脳の形態やネットワーク形成にも重要な役割を果たしていることが示唆されている。またその異常は神経変性疾患や発達障害の原因の一つであることも分かっている。ミクログリアは胎生9日前後から脳内に侵入し、脳の形態形成に関与していると共にエストロゲン受容体が発現しその活性を制御している。環境ホルモンであるビスフェノールAを胎児期に曝露させたところ、大脳皮質及び視床下部においてミクログリアの数が増加し、関連因子の発現異常が見られることが示された。また、エストロゲン産生に関わる転写因子であるSF-1ノックアウトマウスにおいても、ミクログリアの形態や活性に異常が見られることが予備的検討によって示されている。これらの結果は、国内学会でも発表しており、現在は論文発表の準備を行っている。
2: おおむね順調に進展している
現在は、遺伝子改変と化学物質曝露によるモデルマウスを作成し、性ホルモンによる脳の形態形成メカニズムの解明を目指している。遺伝子改変マウスの方は、ステロイドホルモン産生に関わる転写因子であるSF-1のノックアウトマウスを使用している。飼育環境の変化により、生後の生存が困難なため現在は胎生期を中心に解析している。並行して、エストロゲン様作用を持つ環境ホルモンであるビスフェノールAを曝露させ、外因性のエストロゲンシグナルを働かせることによる影響を評価している。さらに、ミクログリアに着目し、神経発生、発達期におけるエストロゲンシグナルによるミクログリアの制御機構の解明を目指している。視床下部におけるミクログリアの局在には雌雄差があることが報告されていることから、脳における性的二型の形成にも関与している可能性がある。
3年計画の最終年度にあたるため、これまでに得られた研究成果を学会発表や論文発表を介して社会に還元することを目指す。特に、ミクログリアが介在する形態形成や性的二型形成メカニズムについては、現在論文を執筆中である。また、現在進行中の遺伝子改変マウスを用いた解析については、生後の神経発達におけるミクログリアとエストロゲンシグナルの関連についても明らかにしたいことから、部位あるいは時期特異的遺伝子改変マウスを併用し、そちらの結果と比較することによってより発展的な研究を行いたい。
マウスの飼育、繁殖が計画通りに進まなかったため、実験用の試薬や抗体の購入を控え、翌年度にサンプルの準備ができた時に必要なものを購入することにしたため。
マウスの繁殖、サンプリングの目途が立ったため、前年度に購入予定だった試薬についても今年度に購入する予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
J Neurosci
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