本研究では、分泌細胞で分泌経路を構成する粗面小胞体、ゴルジ装置、分泌顆粒などの小器官の大局的構造や細胞内配置の秩序に着目して、多様な分泌細胞を整理・類型化する新たな分類理論の確立をめざしている。平成27年度までに、双方向性の分泌動線を持つ甲状腺濾胞上皮細胞のゴルジ装置とその構造維持に重要な役割を果たす微小管の構築の特徴の解析を進め、同細胞では微小管構築が内分泌細胞よりむしろ外分泌細胞に似ていることを反映して、ゴルジ装置が特異な環状配置を呈することを明らかにした。 そこで、この観察結果を踏まえて、平成28年度には、さらに微小管破壊作用を有するコルヒチンをラット腹腔に投与し、微小管破壊後に甲状腺濾胞上皮細胞や他の分泌細胞におけるゴルジ装置の形態がどのように変化するかを解析した。その結果、粗面小胞体とゴルジ装置の間のERGIC区画や輸送小胞に局在するp23分子は、コルヒチン投与30分後に既にゴルジ装置から離れた小胞様構造に移行した。一方、環状のゴルジ装置本体からは経時的に縦方向に多数の管状のゴルジ槽が基底側に向かって突出・伸展した。ただし、シス側とトランス側の近接性やゴルジ装置の構造の連続性はコルヒチン投与後も維持されていた。これに対して、典型的な内分泌細胞である下垂体前葉の性腺刺激ホルモン産生細胞(LH細胞)では、コルヒチン投与後、甲状腺濾胞上皮細胞と同様のタイミングでp23が細胞周辺部の小胞に移行するとともに、時間経過につれてゴルジ装置本体も断片化し細胞内で離散した。以上の観察結果から、ゴルジ装置の構造の秩序維持機構には微小管が深く関与するが、微小管破壊後早期に障害される粗面小胞体-ゴルジ装置間の輸送のような全ての細胞に普遍的な過程と、ゴルジ装置全体の連続性の維持のような細胞ごとに異なる過程の、少なくとも二つ以上の異なる過程が存在することが示唆された。
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