本研究は、近年問題になっている肥満、糖尿病などに代表される脂質代謝異常のメカニズムを分子レベルで解析することを目的として行われた。脂質は摂食などにより体外から得られるのみならず、元来、生体膜の重要な構成成分である。この点に関して、ジアシルグリセロール(DG)は中性脂質合成の中間(分解)物であるだけでなく、脂質二重膜構成成分であり、プロテインキナーゼC活性化などを通じて細胞内二次伝達物質として機能するユニークな分子である。よってDG代謝は生体内の脂質代謝機構と細胞内情報伝達系の両方を制御するハブ的な役割を果たすと考えられる。申請者が注目しているDGのリン酸化酵素DGキナーゼ(DGK)は前述の点で非常に興味深い分子である。本研究プロジェクトの平成26-27年度の成果として、10種あるDGKアイソザイムのうちでε型DGKの遺伝子欠損(DGKε―KO)マウスを高脂肪食で給仕すると、野生型に比べ、急激な脂肪沈着を伴う体重増加が生じることを明らかにした。さらにこの原因が、脂肪組織特異的に生じる脂質分解酵素の発現低下に帰することがわかった。このマウスの脂肪組織では炎症が惹起されていることが明らかとなり、肥満の本態が脂肪組織における炎症応答であるという今日のコンセンサスと合致した。さらに、DGK欠損の結果としてインスリンシグナルに異常が生じて、II型糖尿病様の表現型が現れることが明らかとなった。平成28年度の成果として、マウスから単離した脂肪細胞でも前述の組織レベルと同様の結果が得られ、DGKε―KOマウスの脂肪細胞における脂質代謝異常のメカニズムの一端が明らかとなった。以上の結果はこれまでに国内外の学会(日本解剖学会および米国細胞生物学会)で発表してきたが、現在、プロジェクト完了を機に国際誌への論文投稿を準備している。
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